2012年6月 No.81
 

塩ビ管がアユやフナのシェルターに

ブラックバスなど外来魚の攻撃をストップ。生態系を守るNPOのアイデア

多摩川の稚あゆ ブラックバス
 塩ビ管が多摩川のアユやフナなどを外来魚の攻撃から守るシェルターに生まれ変わりました。多摩川の自然保護に取り組むNPO法人「おさかなポストの会」(川崎市、山崎充哲)のグッドアイデア。ヤマネの巣やアニマル・パスウェイなどにも利用されている塩ビ管に、またひとつ、生き物を守る役目が加わりました。
この川をアユたちは上ってくる
(画面奥が東京湾)
塩ビ管シェルター。水深20〜40cmの
設置が最適。

●多摩川のアユを守ろう

山崎さん

 東京都と神奈川県の県境を流れる多摩川は、水辺の自然環境も豊かな首都圏の憩いの場所。春になると、年間200万匹ともいわれるアユの大群が、産卵のために東京湾から遡上してきます。
 そのアユを襲ってエサにしているのが、ブラックバスをはじめとする外来の肉食魚。近年は多摩川ばかりでなく、全国各地で在来種の被害が報告され、生態系に与える影響が懸念されています。
 「おさかなポストの会」は、ペットとして飼い切れなくなった外来魚を受け入れ里親を捜し多摩川の生態系を守る活動などに取り組む市民団体で、塩ビ管をシェルター(漁礁)に利用する今回の試みは、こうした状況を見かねた同会のメンバーが、何とか多摩川のアユなど日本の魚を守ろうと考え抜いた末のアイデアでした。

●塩ビ管の展示がキッカケに

VECの塩ビ管ブース
(エコプロダクツ2011)

 同会代表の山崎さんによれば、昨年東京ビッグサイトで開催された「エコプロダクツ2011」(平成23年12月15日〜17日)で、塩ビ管を組み合わせて作られた塩ビ工業・環境協会(VEC)のブースを訪れたことが、活動のキッカケになったといいます。
 「多摩川にはもう30年も前からブラックバスが生息していますが、ここ5、6年は従来のオオクチバスに加えてコクチバスが爆発的に増え、これがアユやフナなどの魚を山ほどたべてしまう。何か隠れ場所がないとダメだと思って、最初は竹筒を使ったりしてみたんですが、嵩張る上に節を抜く作業もめんどうで、他に何かないかなと思って、たまたま工事現場で見つけた塩ビ管を試してみたら、とてもあんばいがよかったんです。エコプロ展でVECのブースに使われている塩ビ管を見たときは、ああ、これだとすぐにピンときて、『この塩ビ管、後でリサイクルするんだったら、ぜひ魚のシェルターにリユースさせてください』とお願いしたわけです」

●経過は順調。産卵も確認

 もちろん、VECもこの要請を快諾。アユの遡上やフナなどの産卵が始まる3月初旬には、VECが提供した塩ビ管(排気用のホワイト管)を用いて、会のメンバーや地元の小学校の子供たちの協力で設置作業が行なわれました(設置は多摩区の多摩川)。
 同会では現在、週に一度、魚の利用状況を確認してデータの採集を進めていますが、既にシェルターには魚がすみ卵を産んでいる様子も確認されています。最初は塩ビ管の色を魚が嫌がるかもしれないと思ったそうですが、「一週間もしたらコケがついて、川とすっかり同化して見えなくなりました。産卵もしているし、経過は順調です」(山崎さん)
 データの集計結果が出たら、同様の問題で悩む全国の関係者にとって貴重な情報となりそうです。

塩ビ管シェルターの設置作業の様子 作業に参加した子供たち

 

親子一緒に塩ビ管シェルター工作に挑戦。「多摩川春のアユ祭り」で(5月6日)
好天の下、塩ビ管シェルター作りを
楽しむ参加者

 ゴールデンウィーク最終日の5月6日、川崎市の二ケ領宿河原堰横の広場で「多摩川春のアユ祭り」が開催され(おさかなポストの会など3団体共催)、おおぜいの親子連れが、多摩川の美化運動やアユの放流体験などともに、塩ビ管のシェルター工作を楽しみました。
 参加したこどもたちは、まず紙芝居「多摩川アユ太郎物語」でアユの生態を学んだ後、いよいよ塩ビ管シェルターづくりに挑戦。 お父さんやお母さんに手伝ってもらいながら、ノコギリを上手に使って、1メートル程度にカットしていきます。この長さがポイントで、「長すぎると川に流されるし、短いと魚が使わない」(山崎さん)のだそうです。
 最後に、使用済みの海苔網を再利用した麻ヒモを通して、ハイ、でき上がり。ある女の子は「はじめはちょっと難しかったけど、慣れてきたら簡単に切れました。ノコギリは工作の授業で使ったことがあるだけ。おもしろかったです」と、うれしげな表情。「こどもたちも川を大切にしたいんです。自分を育ててくれた自然ですから」(山崎さん)。「おさかなポストの会」では、今後もシェルターの設置を増やして、観察を続けていくとのことです。
パパに手伝ってもらって、ノコギリでカット。 ヒモを通して 完成! みんなでアユを放流