2012年3月 No.80
 

ぶつかってもケガしない!
人にやさしい「エアバッグカー」完成

広島大学発ベンチャー芥UMANIX(代表升島教授)による世界初の快挙。
モニター販売もスタート

夢のエアバッグカー「iSAVE」
 走行中に衝突事故を起こしても、運転者も歩行者もケガをしない─誰もが望んで、誰も作り得なかった夢の自動車が、広島大学・升島努教授(同大学院医歯薬学総合研究科)の開発チームの手でついに完成しました。「iSAVE」の名前(“人を守る”の意味)でモニター販売も始まり、テレビ番組( TBSテレビ「夢の扉+」2012年1月10日)にも取上げられるなど、今や注目度急上昇。技術の要所々々に塩ビが使われている点も見逃せないポイントです。

● 塩ビ製エアバッグが衝撃を吸収

 升島教授のチームが開発したのは、塩ビターポリン製のエアバッグでボディー全体を覆うことにより衝突時の衝撃を吸収してケガを防ぐという画期的な電気自動車。「車体は鉄」という常識を覆す世界初の快挙です。
 升島教授はもともと「生命解析科学」の世界的エキスパートで、2008年には、ガンの発見や新薬開発を飛躍的に速める細胞分析方法の開発により、日本分析化学会の「学会賞」を受賞しています。今回のエアバッグカーも「多くの生物の体は、ぶつかったときのダメージを想定して柔らかい皮膚で覆われている」ことにヒントを得たもので、一見全く畑違いと見えながら、実は同じ根っ子でつながっている研究成果と言えるかもしれません。

● 第1号機は売買済み

衝撃実験も繰り返行なわれた

 升島努教授がエアバッグカーの開発に着手したのは2008年のこと。「少しでも悲惨な交通事故を減らし、広島での新たな地域起こしにも繋げよう」という熱い思いを抱いてのスタートでしたが、共同開発を申し込んだ大手メーカーに協力を断られたことから、自らベンチャー企業を創設して地元の溶接工場と共同チームを編成。繊維メーカーやターポリンメーカーなど多くの会社の参加も得て、エアバッグの改良、衝突実験などを繰り返しながら、開発作業を続けてきました。
 こうして誕生した「iSAVE」は、車体長2.5m、幅1.3mの、見た目も可愛い3輪車型(定員3人、最高時速50km。普通免許で運転)。フロント、リア、サイドの3面に装着したエアバッグは特殊な布で覆われており、人やモノにぶつかるとバッグ内の空気が抜けて衝撃を吸収します。

昨年の塩ビフォーラムで講演する升島教授

 実用販売に備えて価格を軽自動車なみの79万円に設定したこともあって、コストダウンのための軽量化、中でもエアバッグの空気を抜く弁の軽量化が大きな壁となっていましたが、ホームセンターで見つけた塩ビ管を素材に、教授自ら旋盤を操って新型空気弁を完成。重量約300kgという驚きの軽量化を達成しています。
 また、電源には家庭で充電できるプラグイン方式を採用したほか、ヘッドライトにLEDを使用するなど、最新省エネ技術を駆使している点も特徴のひとつ。先ごろモニター販売された記念すべき第1号機は既に売買済みとなっており、升島教授のチームでは、経過をフォローしながら本格販売へつなげていく考えです。