2012年3月 No.80
 

特集 ★ 東日本大震災から1年

水道復旧と仮設住宅建設に見る「震災直後の対応とこれからの課題」
共通キーワードは「“平時の備え”こそ迅速な災害対応の決め手」

 東日本大震災の発生からほぼ1年。被災地では今も復興へ向けて弛まぬ取り組みが続いていますが、震災直後、最も緊急を要したのは水と避難所の確保。すなわち、破壊された水道の復旧と仮設住宅の建設でした。余震の繰り返しと凍てつく寒さの中で、その作業はどのように行われ、その中からどんな課題が見つかったのか。震災後1年という節目に当って、全国管工事業協同組合連合会(全管連、東京都豊島区)と(社)プレハブ建築協会(東京都千代田区)に話を聞きました。両者の話から、迅速な災害対応を進める上で「平時の備え」がいかに重要かが浮き彫りになっています。

全国管工事業協同組合連合会の水道復旧活動

●過去の災害との大きな違い

雪の降る中での復旧活動

 「昨年3月の東日本大震災は、本震とこれに伴う大津波により、東北から北関東に至る500kmにわたる太平洋沿岸地域に壊滅的な被害をもたらすとともに、福島の原発事故を誘発し放射線物質により大気・海水が汚染される未曾有の大被害をもたらした災害であった。この大震災における水道施設の被害(原発関係を除く。)の特徴は、@津波による沿岸部の広域被害 A耐震性の低い構造物の被害 B地盤の液状化による被害等が挙げられる。なお、断水戸数は、阪神・淡路大震災の130万戸を遥かに上回る230万戸に及び、全管連としては、道路は寸断され、水もガソリンも不足する中、傘下の全国の仲間が昼夜を問わず献身的に応急給水・応急復旧を繰り広げた。」(後藤庄司専務理事)

●計226万戸の断水を復旧

 全管連おいては、今回の大震災に際して、1都1道12県の会員団体(北海道と東北6県、および茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、兵庫、岐阜各県の計64組合)から、被災地5県(岩手、宮城、福島、千葉、茨城)に復旧作業班を派遣。延べ人数5万2000名、延べ日数約3700日を費やして作業を敢行した結果、津波による壊滅的な被害を受けた太平洋沿岸部を除いて、7月末までにほぼ復旧を完了しています(厚生労働省の統計では、平成24年1月10日時点で計226万戸の断水が復旧。次頁のグラフ参照)。
 その迅速な対応には「被災地の水道事業体などから高い評価が寄せられた」といいますが、冒頭の後藤専務の言葉は、その背後に想像を絶する困難を伴ったことを示しています。

●日水協、厚労省と連携。震災当日から応急給水に出動

佐藤理事

 復旧活動の出動体制について同連合会の佐藤章理事(技術部長)は次のように説明します。
 「我々の役目は地域の水道事業体(市水道局等)が行う復旧作業を応援すること。被災事業体からの応援要請を受けて動くのが基本であり、緊急時に備えて以前から(社)日本水道協会(約1400の水道事業体で組織する全国団体。日水協)と災害協定(後述)を取り交わし、迅速に行動できる体制を整えている。今回も震災発生翌日の3月12日に救援対策本部を立ち上げ、厚生労働省、日水協との密接な連絡の中で総力で対応してきた。
 基本的な応援要請のルートは、被災事業体→日水協→応援事業体という流れになっているが、我々は日水協が要請を受けた段階で情報を共有し、どこのブロック・県のどの組合に何を(給水か配水管復旧か給水管復旧か、など)応援に行ってもらうかの連絡・調整を行う。ただ今回は飲み水の確保が最優先だったので、これについては震災発生日の3月11日から近隣の管工事組合が直接、被災事業体と連絡を取り、自発的に給水活動を行ったケースも多い。現地に入った組合員は給水活動の傍ら日水協の関係者と被害状況を調査するが、その情報は我々が応援体制を準備する上で重要な判断材料となった」

●復旧班の行動力と献身的なチームワーク

 全国の管工事組合では、全管連からの指示を受けて直ちに出動できるよう、平時から復旧班を編成していますが(員数は平均6名)、「今回はその行動力と献身的なチームワークが見事に発揮された」といいます。

後藤専務理事

 再び後藤専務理事の説明。「災害の応急支援はいかに迅速に対応するかがカギ。例えば昼過ぎに日水協から要請が入ったら、直ちに各県支部と調整して派遣組合を決定、翌日の朝9時には復旧班のメンバーが揃って出発式を開き、その日のうちに現地入りした。派遣される工事業者は、もちろん自分の仕事を犠牲にしている。現地に入っても、寝る場所を確保することさえ難しい。使える建物があればそれを確保することもあるが、基本は野宿覚悟なので寝袋は絶対条件。当初、東北地方はまだ厳しい寒さが続いており、車で寝ても、ヒーターは貴重なガソリンを消費するので使えない。何しろ寒さとの闘いが大変だったと復旧班のメンバーから聞いている」
 一方、震災1週間後の17日からは大澤会長と災害対策担当理事が被災5県を順次視察して、各県の関係者と今後の対応を検討するとともに、地域の会員組合へ救援物資(ペットボトル、マスク、カセットコンロ、ボンベ等)を緊急搬送。併せて見舞い金も届けるなど、被災地の支援に奔走しています。また、会員組合から集った義援金も1カ月余りで7700万円に達し、「地域に密着した地場産業」としての、被災地との強い連帯意識がうかがわれます。

東日本大震災における水道の復旧状況
(厚生労働省のデータから作成)
<拡大図>

 

●「災害協定」と「復旧工事対応マニュアル」の役割

迅速な復旧を可能にした

 今回、全管連が組織的な復旧活動を展開する上で決定的な役割を果たしたのが、関係機関との災害協定と「復旧工事対応マニュアル」(『地震等緊急時における応急復旧工事対応マニュアル』)です。
 全管連では「起きてからどうするのかではなく、起きる前にどうするのか」(大澤会長)という問題意識から、平成21年6月に日水協と「災害時における応急復旧活動の応援協力に関する覚書」を取り交わしたのに続き、同年12月には建機メーカー・資材商社6社とも同様の災害協定を締結。災害時に必要なレンタル機材(油圧ショベル、クレーン車など)や資材(管材など)を迅速に調達できる体制を整えるなど、大規模災害の発生を視野に入れた即応体制づくりを進めてきました。
 「復旧工事対応マニュアル」は、これを受けて、22年1月に策定したもので、内容は、緊急時の連絡体制、平時の準備(資機材、工具など)、応急復旧の方法と手順、応援隊の編成など、迅速・的確な復旧活動を行うための具体的な情報が詳細に記載されています。また、レンタル機材や資材の確保・調達等について、単位組合独自でも水道事業体などの関係機関と協定を締結しておくよう提唱しており、そのための『協定締結事例集』も作成して会員団体に配付しています。
 「まさかこの段階で大震災が起こるとは思わなかったが、災害協定とマニュアルが有効に機能したことが、迅速な復旧を可能にしたことは確かだ。全国ネットの建機メーカーの協力がなかったらスムースな機材の供給は難しかっただろう」(後藤専務理事)

●明らかになった課題に対応してマニュアル改訂へ

応急給水活動

 以上のように、建機資材の確保という点で大きな役割を果たした「復旧工事対応マニュアル」ですが、今回の取り組みの中から今後への課題も明らかになってきており、全管連では現在その見直し作業を進めています。
 「昨年9月に行った被災県の各支部との意見交換会で『被災地域への応援マニュアルだけでなく、自らが被災地となった場合の復旧マニュアルが必要』との指摘があった。また、応援マニュアルでも情報伝達など裏表でまだ見直すべき点がある。そういう課題を洗い出し、論点整理しながら改訂を進めていくことにしている」(佐藤理事)。
 見直し作業は被災地復旧と復旧応援の2つのワーキンググループで行われており、2012年5月の定例理事会を目途に、応急復旧における緊急対応の在り方をさらに充実させるとともに、中小都市の管工事組合の指標となるような内容を盛込んだマニュアルの改訂を目指すこととしている。
 また、以前から問題になっていた「水道資材の規格寸法の統一」についても、その必要性がさらにクローズアップされています。「ネジひとつ取っても水道事業体によって右回りもあれば左回りもありサイズも違う。止水栓の形状も四角形もあれば六角形もあって、工具からして合わない。給水管の種類も千差万別で隣の水道事業体同士でも違う場合がある。阪神淡路大震災の後、全国統一を望む声が大きくなってだいぶ整備されてきたが、まだまだ十分とはいえない」(同)
 このほか、水道施設、取分け基幹管路(導水管、送水管、配水管)の耐震化の促進、現場における実際の工事に携わる配管技能者(給水装置工事配管技能者)の法的な位置づけの確立などを含め、全管連では先を見据えた取り組みを続けています。

全国管工事業協同組合連合会(略称:全管連)

 昭和35年6月建設省(現国土交通省)の設立認可の連合会(大澤規郎会長)。全国各地の管工事組合637団体を束ねる唯一の中央組織であり、傘下には約1万7千400社(指定水道工事店)を擁する。全国を10ブロックに分け、各都道府県に支部(連合会)がある。
 最も基本的なライフラインの一つである水道を支えるため、傘下の組合においては、給水装置工事主任技術者(国家資格者)をはじめ、技能・技術を有する配管技能者が日々の工事に従事するのはもちろん、防災訓練の実施や災害復旧でも一貫して献身的な活動を行っている。

 

全国管工事業協同組合連合会の水道復旧活動

●「普段の活動」が大きな力に

完成した仮設住宅

 一方、プレハブ建築協会でも各都道府県との間で個別に災害協定(「災害時における応急仮設住宅の建設に関する協定」)を締結しており、今回の震災でもこの協定を基本に仮設住宅建設が進められました。
 同協会東日本大震災応急仮設住宅建設本部・管理本部の高橋昇本部長は、「我々の災害協定は昭和50年の神奈川県に始まり、その後阪神・淡路大震災の発生がインパクトとなって順次全都道府県に広めていったもの。災害時の仮設住宅の建設に関して両者のやるべきことや連携の手順などを細かく定めており、我々は毎年各県を訪問し、大災害に備えた図上訓練なども実施して、関係者間で認識の統一を図ってきた。つまり、今回の大震災で4万戸を超える仮設住宅の建設要請に何とか対応できたのは、普段から広域的な活動に地道に取り組んできた結果であって、災害が起きて突然対応したわけではない」と、やはり「平時の備え」が災害対応の大きな力になったことを指摘しています。

●混乱の中でスタートした仮設住宅建設

 同協会の災害対応は、協定を結んでいる県との2者間で進めるのが基本ですが、今回は未曾有の広域大災害ということで、国土交通省が全体の調整役を担当。これを受けて同協会も、全体を束ねる組織として初めて管理本部を協会内に設けるとともに(3月12日。同時に災害対策本部と応急仮設住宅建設本部を設置)、3月16日には宮城県仙台市、岩手県盛岡市、福島県郡山市の3カ所に現地建設本部を設置して、国交省の統括の下、早期の住宅建設実現に向けて活動を開始しました。

高橋管理本部長

 「国交省からは既に3月14日の段階で『概ね2カ月で3万戸の仮設住宅を供給してほしい』との要請を受けており、共同で作業に当ることになった当協会の規格建築部会と住宅部会(前頁の囲み記事産省)のメンバーなどが現地本部に入って、県の災害担当部署と協力しながら、現地の状況調査と配置計画(仮設住宅の建設候補地や戸数)の策定、住宅の仕様の確定などの作業に当たった。手順としては、配置計画を県が承認し、団地ごとの戸数が明確になった段階で、東京の管理本部が会員企業の斡旋をすることになっていたが、今回は津波、さらには原発事故という想定外のことが重なって、最初は相当混乱を極めた中でのスタートとなった」(高橋管理本部長)

●「ガソリン不足」と「建設用地確保」で苦労

 初期対応の中で最も苦労したのは、「ガソリン不足」と「建設用地の確保」でした。
 「初めのうちはガソリンが手に入らず現場に行くことすらままならなかった。現場に入って状況を調査しなければ作業の基盤になる配置計画も立てられないわけで、これにはたいへん困ったが、間もなくガソリンが供給されるようになり、高速道路の使用についても優遇的な措置が取られるようになって、徐々に解決に向かった」
 建設用地の選定でも大きな壁が立ちはだかりました。
 「当協会では災害協定に即して、平時から各都道府県と建設用地の候補地台帳を作り有事に備えているが、今回被災した東北3県については、台帳に載せていた沿岸部の平坦地が津波で甚大な被害を受けていたため高台に新たな土地を求めねばならず、その選定にかなりの時間を要した。それでも過去の経験に基づいて何とか計画書を作り上げられたのは、やはり平時からの活動があったからこそのことだと思う」

応急仮設住宅 着工・完成戸数の推移
(国土交通省のデータから作成)
<拡大図>

 

●住宅づくりだけで済まない現場の仕事

外原管理副本部長

 管理本部の外原昭雄副本部長(資材担当)の話では、建設部材の調達に関しても「3月から4月にかけて合板やグラスウールが不足して、いろいろな所から材料を手当てしなければならなかった」などの苦労があったといいますが、一方で建設現場での作業にも多くの困難が伴ったようです。 「仮設住宅の建設には、1戸(9坪)当り平均20人が従事したが、その作業は単に家を作ればいいというわけではい。水道の回復が進んでいなかったら井戸を掘る、排水ができていなかったら浄化槽、水が出なかったら受水槽やダストポンプを用意するなど、時にはインフラ整備、街づくりから始めなければならず、その分工期も長く掛かることになった。厳寒の中での宿泊場所の確保、食料確保の問題も含めて、最初に現地に乗り込んで作業した会員企業の人たちは相当の苦労を強いられながら、初期対応を乗り切ってきた」(外原管理副本部長)

●仮設住宅4万3206戸を完成

寒さ対策も進む

 今回、同協会が手がけた仮設住宅の件数は、3月〜9月末までの約6ヵ月間で4万3206戸(岩手、宮城、福島、茨城、千葉、長野6県の合計。うち東北3県だけで4万2901戸)。これに12月宮城県で追加仮設住宅を53戸、公募企業や地場企業が建設した9360戸を加えると、最終的に5万2620戸という膨大な数の仮設住宅が建てられたことになります(前頁のグラフ参照)。このほかにも、民間のアパート6万2000戸が「みなし仮設住宅」として提供されていますが、これは過去にほとんど例のなかったことで、「今回の震災がいかに大規模なものだったかを物語る出来事」(外原管理副本部長)といえます。
 現在同協会では、厚労省からの要請を受けて寒さ対策の追加工事に取り組んでおり、10月中に対策がほぼ完了した岩手県を除き、宮城県と福島県では引き続き現地本部を置いて作業が進められています。このうち、宮城県は3月末までに、福島県も5月末までにはほぼ工事を完了する見通しです。

● 情報の共有化へ、『応急仮設住宅資料集』を作成

次世代への貴重な記録

 同協会では、災害対策業務を円滑に推進するに当って、都道府県と同協会とが行なう相互の役割分担、建設のフローチャート、建設に関するプランなどをまとめた「応急仮設住宅建設関連資料集」を作成して、会員企業に配布しています。
 また、この「資料集」には、応急仮設住宅に関する建設能力、標準プラン、標準工程表なども記載されており、これらについては毎年調査、研究を行った上で、「資料集」の改訂が行なわれることになっています。
 「資料集」の意義について高橋管理本部長は、
 「3県同時発生の大震災という未曾有の災害の中で、コミュニティづくりとしての配置計画やレイアウトの作り方、資材調達の問題など、過去の経験実績だけでは計り知れない様々なことを経験し、学習した。これを来年度以降の『資料集』に反映させたい。寒さ対策が完了した時点で我々の役割もひと段落となるが、関東以南の広域災害の可能性も囁かれる今、国も含めできるだけ多くの関係者に災害時の応急仮設住宅建設のマニュアルとして利用してもらいたい」と語っています。

(社)プレハブ建築協会

 和田勇会長。プレハブ建築の健全な普及と発展を図ることで「わが国建築の近代化を推し進め、国民経済の繁栄と国民生活の向上に寄与する」ことを目的に、建設省、通商産業省(当時)の共管により昭和39年1月31日に設立。正会員 41社、準会員 39社。
 これまで平成2年の雲仙普賢岳噴火、12年の三宅島と有珠山の噴火、阪神・淡路大震災をはじめとする大規模地震、さらには台風災害等の発生に際し、応急仮設住宅の迅速な供給等を通じて、被災地域の復旧・復興に努めてきた。規格建築部会、住宅部会、PC建築部会の3部会があり、災害時の応急仮設住宅建設は主に規格建築部会(会員14社)が対応するが、今回は阪神・淡路大震災以来初めて、住宅部会(20社)が作業に参加した。