2011年12月 No.79
 

森の分断から、小さな命を守る
「アニマルパスウェイ」

樹上性動物の「生活の場」回復へ、建設業界とNGOが連携。塩ビもひと役

2007年7月、山梨県清里高原の市道上に建設された第1号機。
構造の詳細は本文で
 天然記念物のヤマネは、木の上を主な棲家とする樹上性動物。日本の森には、ほかにもたくさんの樹上性動物が生活しています。そんな貴重な生き物の命を守るのが、日本生まれの「アニマルパスウェイ」。森の分断で狭められた動物たちの生活の場を回復するため、塩ビもちょっとお手伝い。

二ホンリス

ニホンヤマネ

●動物のための吊り橋

森と森をつなぐ吊り橋

 ヤマネやヒメネズミ、リスなどの樹上性動物は、普段は木の枝から枝へと伝って森の中を移動しますが、道路工事などで森が分断されると、その通り道が閉ざされて、餌を取れなくなったり、繁殖機会が減少したりして、遺伝子の多様性や森の生態系を損なう一因となってしまいます。また、道路を渡ろうとして車に轢かれる「ロードキル」の被害も大きく、毎年リスなどの死亡例が報告されています。
 アニマルパスウェイは、こうした問題に対応して開発された「動物のための吊り橋」。分断された森と森の間を自由に行き来できるようにすることで、貴重な生き物を絶滅の危機から救おうという試みです。シカやタヌキといった地上の大型動物のためのアンダーパス(多くはトンネル方式)は海外にも見られますが、これまで顧みられることの少なかった樹上性動物を守る吊り橋式のものは日本のオリジナルで、イギリスなど海外でも日本の取り組みを参考にする動きが広がってきています。

●「アニマルパスウェイ研究会」の取り組み

大竹参与

 アニマルパスウェイを開発したのは、(財)キープ協会やまねミュージアム(山梨県北杜市清里)に本部を置く「アニマルパスウェイ研究会」。その東京事務所の窓口役を務める大成建設(株)環境本部・地球環境室の大竹公一参与に取り組みの経緯をうかがいました。
 「2003年に日本経団連の自然保護協議会が開催したNGOと建設業界の懇談会で、やまねミュージアムの湊秋作館長(関西学院大教授)から協力の依頼を受けたのが研究会の始まりです。1998年に湊館長と県の協力で架設した『ヤマネブリッジ』(アニマルパスウェイの前身)が、有効性は確認されたものの、建設コストが高く他の道路への普及が難しいということで、より低コストの施設開発に大成建設と清水建設が協力することとなりました。翌2004年1月には、やまねミュージアムが主催する『ニホンヤマネ保護研究グループ』とIT企業のエンウィットを加えて「アニマルパスウェイ研究会」を結成。早速開発に着手し、約3年に及ぶ実証実験を経て2007年7月に第1号機を設置。その後、NTT東日本も加わって、2010年3月には2号機を建設することができました」
 開発で最も苦労したのは「寒冷地である清里の気候に合った構造計算と部材の検討だった」といいます。このため、材料もアルミや銅などできるだけ熱伝導のいいものを選定し雪や氷柱の落下を防止、積雪荷重や耐風速にも考慮した構造となっています。24時間のモニタリングシステムも設置しており、ヒメネズミやヤマネを含め最初の3ヶ月だけで約800回以上の利用を確認するなど(1号機の場合)、パスウェイの効果の立証や動物の行動チェックなどに役立っています。

   
ヤマネも、リスも、野鳥も通る。モニタリングシステムが捉えた動物たちの姿

●塩ビ管の予期せぬ効用

構造と材料の検討

 アニマルパスウェイ1号機は全長13.5m、床幅28cmで、道路面からの高さは6.5m。一辺が25cmの三角形のフレームを金属ワイヤーで25cm間隔に繋ぎ合わせた上に、アルミ製の屋根、銅製の金網の床、電源・通信ケーブルを保護する塩ビ管などを備えた構造となっています。塩ビ管については耐久性のよさがポイントですが、「ケーブル保護という本来の役目に加えて、ヤマネやヒメネズミが好んでその上を走ることがわかった」とのことで、意外な効果も発揮している様子。
 「昼行性のニホンリス、夜行性のヤマネやヒメネズミと、いろいろな動物が多目的に使えるように工夫した。大きな壁を持たない開放的なつくりは閉所を嫌うリスにとっては好都合だが、ヤマネやヒメネズミには天敵のフクロウなどの猛禽類等に襲われる危険性が高まる。そこで途中数カ所に金属の板で覆った待避スペース(シェルター)を設けたり、木の枝に逆さにつかまって移動する性質があるヤマネのために、屋根の下に移動用のマニラロープを渡したりもしています」
 このほか支柱(電柱)に杉材の表皮を巻き付けて動物が掴まりやすいようにしたり、随所に細かい工夫が施されています。

●高まる自治体の関心

2号機は清里高原の県道上に

 「最近は自治体からの見学も多く森の生態系保護に関心が高まっている。そういう地域のためにアニマルパスウェイを普及したいというのが我々の活動の目的で、あくまでCSRの一環としての社会貢献と考えています」と語る大竹参与。
 研究会の活動に対して、2008年に土木学会環境賞、2010年には第1回「いきものにぎわい企業活動コンテスト」(企業の生物多様性保全活動を顕彰するコンテスト)の環境大臣賞が贈られていることは、そうした真摯な姿勢が評価された結果といえます。