2011年6月 No.77
 

(株)トッパン・コスモの塩ビ壁紙リサイクル事業

アールインバーサテックの技術を導入、工場端材をマテリアルリサイクル

細片化装置「リサイクルブレーカー」
 (株)トッパン・コスモ(本社=東京都港区)は、化粧シートや床材、壁紙など各種建装材の製造販売を手がける、凸版印刷鰍フグループ企業。同社では現在、リサイクル技術のベンチャー企業・アールインバーサテック(株)(東京都千代田区)との連携で、塩ビ壁紙のマテリアルリサイクルに取り組んでいます。今回は、同社の子会社で塩ビ壁紙の製造拠点である(株)トッパン建装プロダクツの幸手工場(埼玉県幸手市惣新田4237-1 TEL. 0480-48-3408)から、取り組みの現状をレポート。

●ゼロエミッションの達成をめざして

堀川部長

 積極的な環境対応で高い評価を受けているトッパングループ。同グループの環境活動は、2009年4月に策定した「トッパングループ地球環境宣言」(1992年の「凸版印刷地球環境宣言」の改訂版)と、その理念を具体化した4つの活動領域(下の記事参照)を基本的骨格としており、個々の事業所・工場はこの骨格を踏まえて独自の取り組みを展開する形となっています。
 (株)トッパン・コスモの場合、子会社の(株)トッパン建装プロダクツ幸手工場に同社の社員が環境管理面のスタッフとして従事する体制を取っており、2000年3月のISO14001取得以降、ゼロエミッションの達成をめざして、マテリアルリサイクルの拡大や省エネ、CO2排出削減などの活動を展開してきました。今回ご紹介する塩ビ壁紙のリサイクルも、そうした流れの中で取り組まれているものです。

トッパングループ「4つの環境活動領域」

■環境マネジメント活動=環境マネジメントシステムの構築等、環境への取り組みを組織的に運用する活動

■エコガード活動=企業活動に伴う環境負荷を可能な限り低減する活動(省エネ・省資源、地球温暖化ガスや化学物質の削減、廃棄物分別・リサイクルの推進など)

■エコクリエイティブ活動=環境配慮型製品の開発、評価、販売及び技術サービスを積極的に推進する活動

■環境コミュニケーション活動=グループ内外への啓蒙活動や地域社会との共生活動を通して、利害関係者とともに環境に取り組む意識の共有化を行う。

●「MR壁紙再生システム」との出会い

図 塩ビ壁紙リサイクル手法別比率の推移
<拡大図>

 (株)トッパン・コスモ製造・技術開発本部の堀川義晃第一技術部長の説明によれば、「塩ビ壁紙の工場端材については、2003年度にリサイクルをスタートするまでほぼ全量を埋立処分してきた。リサイクルが本格化したのは2004年度以降だが、その内容は大半が猫砂(ペットトイレ)としての利用であり、我々としては、できれば壁紙の原料に再利用するか、それが無理なら、せめて人々の生活により身近な商品にリサイクルしたいという思いがあった」とのことですが、その思いは、アールインバーサテック(以下、アール社)の塩ビ壁紙リサイクル技術(「MR壁紙再生システム」)と出会ってから、大きく前進することとなります。
 「MR壁紙再生システム」は、高速遠心叩解(こうかい)法と呼ばれる技術を用いて塩ビとパルプを精密に分離、粉砕し、それぞれを塩ビコンパウンド、パルプファイバーとして再資源化するもので、複合製品ゆえにリサイクルが難しいと言われてきた塩ビ壁紙を、小さなエネルギーと低コストでリサイクルする画期的な技術といえます(詳しくは本誌No.69参照)。また、回収した塩ビは粒度約300μ、純度も極めて高いため床材やシートなどに幅広く再利用できるのも大きな特徴のひとつです。
 「我々がアール社の情報を知ったのは2007年の夏。当時、塩ビ壁紙のリサイクル技術としては溶剤を使って塩ビを溶解、回収する方法を知っていたが、アール社の技術は、粉砕して塩ビと紙に分けるという点が非常にシンプルで、より共感できるものだった。また、リサイクルの用途もわかりやすく、自動車のフロアマットやフローリング材など、身近な生活商品に再生するというコンセプトが我々の思いに沿っている。そうであれば、我々もこの新技術を積極的に支援していきたいと考え、アール社との提携を決定した」(堀川部長)
 こうして、2008年度のテスト期間を挟み、2009年12月にはアール社が開発した前処理設備(細片化装置「リサイクルブレーカー」)を幸手工場に導入(排出事業者として工場の中にアール社の前処理設備を導入したのは同社が第一号)。同工場で約20ミリ角に細片化した塩ビ壁紙を、アール社で叩解分離、再資源化するという連携の形ができあがり、取り組みは一挙に本格化しました。

●工場端材の97%を細片化

 幸手工場における塩ビ壁紙のリサイクル量は年間400トン余り。2010年度の実績では、その97%が細片化処理となっています(上図参照)。

除去された両面テープ

 「リサイクルブレーカーの稼動は1日平均6時間。細片化した壁紙はフレコン詰めにして保管しておき、アール社が週1回回収に来る。当社では非塩ビ系の壁紙も製造しているので、混入しないように工場内で徹底した分別が必要になる。また、同じ塩ビ壁紙でも、製品の色合わせのときに使う両面テープが貼ったままになっているものが混ざっている場合があり、こうした異物も手作業で注意深く取り除いて細片化しなければならない。これをやらずに少しでも異物が混ざった形でアール社に渡してしまうと、アール社の処理ラインに大きな影響を与えることになるので、この点は細片化設備を入れてから最も注意している。リサイクルは、とにもかくにも分別の徹底が第一だと思う」(第一技術部設備技術グループの岡野祥彦主任の話)

●埋立より低コスト。CO2抑制効果の期待も

岡野主任 倉橋課長

 堀川部長はアール社の技術を導入したことについて、「やはりやって良かった」と評価しています。
 「一番は埋め立てるよりもコスト的な魅力がきちんと出ていること。次にリサイクル用途が広がりリサイクル率も向上したこと。さらに我々はCO2の排出抑制についても貢献できているのでないかと見ており、具体的なデータをもう一度正確に計算してみたいと考えている」
 また、第一技術部設備技術グループの倉橋充課長(グループリーダー)も、「マテリアルリサイクル率の向上を維持しつつコストのバランスも考えなければならない、という複雑に絡み合った問題が、アール社との提携で一度に解決できた。そういう意味ではとても有意義な取り組みだと思うし、CO2排出量をトータルで削減するという点でも、こうした取り組みは今後も積極的に進めていくべきだというのが一つの方向性だと思う」としています。
 なお、今後の展開に関しては再生用途の拡大も検討が進んでいるようです。
 「同じリサイクルでもベストはループリサイクル。例え1%でもいいから、もう一度壁紙の原料にリサイクルしたいというのが我々の夢だが、現時点では技術的に難しい。今、アール社にお願いしているのは、何か建築関係の部材に再利用できないかということで、壁紙を貼るときのコーナーの補強材などが候補に上がっている。そういう用途は我々としても大歓迎だ」(堀川部長)

●「ゼロエミッション事業所」に認定

幸手工場に交付された
「ゼロエミッション事業所」の認定証

 幸手工場では2006年度にゼロエミッションを達成して以降、全製品においてほぼ100%のリサイクル率を維持しており、2009年度の実績を見ると、同工場から出た廃棄物の総量(有価物を含む)6152トンのうち6129トンが再資源化されています。手法としてはマテリアルリサイクルが91%、残りは殆どサーマルリサイクルで、埋立処分は全くありません。また、同工場では塩ビ壁紙以外に塩ビフィルムなども製造されていますが、これらについては床材原料化などによりリサイクルが進められています。
 トッパングループには、再生再資源化率98%以上という基準を実現すると、グループの環境事業を統括する「エコロジーセンター」から「ゼロエミッション事業所」の認定証が交付される制度があります。認定証の有効期限は1年で、毎年チェックを受けて更新されるという厳しいものですが、幸手工場が今年も5年連続で認定証の交付を受けることは間違いなさそうです。