2010年9月 No.74
 

温泉でトラフグ養殖。
『ユニーク町おこし』に塩ビもひと役

養殖用水槽に塩ビターポリンを使用。丈夫で長持ち、施工もカンタン

  塩ビターポリンの水槽がひと役
 温泉水でトラフグを養殖するというオドロキの試みが、世間の耳目を集めています。栃木県那珂川町で進められているこのユニークな町おこしに、ひと役買っているのが塩ビターポリン(帆布)。耐久性に優れ、施工もカンタンという特長から、養殖用の水槽に使われていると聞いて、本誌もさっそく現地取材を敢行。

●那珂川町里山温泉トラフグ研究会

  温泉育ちの見事なトラフグ

 那珂川町は栃木県の北東部、アユの漁獲量日本一を誇る自然豊かな町です。海水魚トラフグの養殖に取り組んでいるのは、この町で水質や土壌を調べる会社を経営する野口勝明さん。
 野口さんは、同町で湧き出る温泉水の分析を手掛けるうち、その塩分濃度に着目。生理食塩水とほぼ同じ1.2%の濃度が海水魚の養殖に適していると判断し、「どうせなら高級魚を」とトラフグの養殖を思いついたといいます。2008年11月には、栃木県水産試験場や宇都宮大農学部の技術支援を受け、地元企業などと共同で「那珂川町里山温泉トラフグ研究会」を結成。廃校となった小学校の教室に養殖用の水槽を5つ設置し、温泉水をトラックで運び入れて、本格的な研究に着手しました。
 温泉水を使った養殖の利点は育ちが早いこと。通常、海での養殖が出荷までに1年半ほど掛かるとされているのに対し、年間を通じて水温を23〜24℃に保てる温泉水での養殖は、水温低下に伴う冬場の食欲減退を防げることなどから1年程度で出荷できます。ただ、海水養殖に比べると塩分濃度が低いため(海水の塩分濃度は3.6%程度)肉が軟らかくなるのが難点とのことで、同研究会では、一定時間海水で泳がせるなどの試行錯誤を重ねて徐々にこの問題を改善。昨年6月には関係者を集めて、体長30cm重さ600gにまで成長したトラフグの試食会を行い、食味も良好との評価を得たといいます。

●2011年度中に商品化の計画

  丸型くみたてそう(一般水用)

 現在試験飼育されているトラフグの数は1200匹余り(水槽1槽当りおよそ250匹)。この水槽に使われているのが塩ビ製ターポリンです。
 塩ビターポリンとは、ポリエステルなどの合成繊維やガラス繊維などの織物に塩ビ樹脂を両面(または片面)コーティングした製品で、丈夫で長持ちするため帆布やテントの生地、フレコン、建築養生シート、かばん生地やトラックの幌などに幅広く利用されています。
 施工も手軽で、排水口が容易に作れるなどの利点があるため水槽にも適しており、今回のトラフグ以前にも、イワナやヤマメなどの養殖に用いられた実績があります。
 同研究会では、今年度養殖用水槽をさらに5つ増やし、1槽あたり350匹のトラフグを育てる過密養殖にチャレンジ中で、2011年度内には、1万匹出荷を目標に商品化(地元温泉・宿泊施設への地域ブランドとしての提供や、ネット販売への販路拡大など)にこぎつける計画。
フグの養殖は長崎県や熊本県など西日本の臨海地域が中心ですが、果たして海なし県・栃木の温泉トラフグもその仲間入りとなるか。今後の動きから塩ビ業界も目が離せません。