2010年9月 No.74
 

地域に根ざす、環境ボランテイアの役割

「より良い地球環境を次世代に」。
区民、在勤者、企業、団体、行政が協働

中央区環境保全ネットワーク代表 川名 一榮 氏

 

●中央区の環境問題を解決する

★中央区環境保全ネットワーク 
 2002年1月、中央区内の在住、在勤の個人、民間団体、事業者が連携して発足した環境ボランティア団体。
 「より良い地球環境を次世代に残すこと」を目的に、会員相互の情報交換や地域住民との交流会、研修会等の開催、区の環境行政に対する提言など、生活の場と結びついた環境保全活動に取り組んでいる。中でも、子どもたちや地域の人々を対象とした体験型の環境学習イベント「子どもとためす環境まつり」の企画・開催は、中央区民ばかりでなく、他の環境団体や国の環境行政機関などからも高い評価を受けている。会員数は個人会員および企業・団体会員合わせて約110者(うち企業・団体は約40)。
 機関紙『かんきょうねっと』を年2回発行。
http://www.geocities.jp/chunet2005/

左から、川名さんと、顧問の篠原さん
(2代目代表)、喜納さん(初代代表)

 中央区というのは、東京23区の中では千代田区の次に人口の少ないところで、区内の在住者は11万人ぐらいしかいません。ところが、日本橋、銀座といった大きなオフィス街を擁しているため、昼間の人口は65万人ぐらいに膨れ上がってしまいます。それだけ在勤の人が多いわけです。ですから、例えば区内のごみの排出量の9割は企業から出る分ですし、水や電気の消費も事情はそう変わりません。つまり、CO2の削減でも省エネ・省資源でも、在勤者と区民が一緒に取り組まないと中央区の環境問題を解決することは不可能なのです。
 このことは以前から指摘されていたことで、2000年に中央区が策定した環境保全行動計画でも「行政、在勤と在住の個人および民間団体、事業者とパートナーシップを築くこと」が求められていました。また、2001年には地域の環境問題を行政に提言する東京都環境保全推進委員会の地域集会が廃止となり、都の方針も、地域の環境保全は地域の人々の「協働」でという方向に切り替わりました。
 中央区環境保全ネットワークは、こうした動きをきっかけに2002年に設立されました。私たち中央区の在住者と在勤者、事業者が一緒になって、行政と連携しつつ、自分たちの手で区内の環境を守っていく。その思いをひとつにして、環境保全推進委員で区の環境保全行動計画策定委員・環境カウンセラーの喜納愛子(後に同ネットワーク初代代表)、東京都環境学習リーダーであり中央区環境行動計画推進委員会委員の篠原良子(2代目代表)、さらには中央区女性海外研修者の会(かつて中央区が実施していた中央区女性海外派遣事業の参加者の団体)に所属している主だったメンバーが集まり、環境問題に関心のある多方面の人々に呼びかけたり、新宿区など在勤者の多い他の区の取り組みも参考にしたりして組織づくりを進めました。

●行政の理解と企業の協力

 もっとも、企業との協力は初めから上手くいったわけではありません。当時の企業は環境問題とか、CSR(企業の社会的責任)とかに対する理解が必ずしも十分ではなかったし、こちらも設立したばかりで、まるで実績がないわけですからね。企業も腰が重かったんです。訪ねていって「担当の方にお目に掛かりたい」とお願いすると、「ちょっと待って」と言っておきながらその後全く梨のつぶてだったり、今でこそ「嘘でしょ」と言われるような話ですが、当初はほんとにそんな試行錯誤の繰り返しでした。
 それでも、中央区の理解と協力があったので、2年ぐらい経った頃から、区の環境部を通じて「入りたい」と言ってくる企業が増えてきて、段々一緒に活動してもらえるようになりました。中央プラネット(中央区社会貢献企業連絡会)の活動に参加した縁で、浜離宮恩賜庭園の自然保護活動に取り組むようになりました。今では日本を代表するような大手企業も会員として浜離宮で自社独自の活動を展開しているところもあります。また研修会などでお話してもらったり、イベントでタイアップしたりといった形でバックアップしてくれる企業もたくさんあります。特に年1回開催する「子どもとためす環境まつり」には、CSRの一環として毎年多くの企業がお金も知恵も人も技術もすべて結集して協力してくださるので、ほんとうに感謝しています。

●体験型学習イベント「子どもとためす環境まつり」

★子どもとためす環境まつり 
 中央区環境保全ネットワークが「地域に根ざした環境学習の機会」として、区内の小学校を会場に巡回開催する体験型環境学習(共催=中央区)。2004年に区立月島第二小学校で第1回が開催された。毎回、区内の区民や企業、団体などがブースを設けて、「親子で学ぶ環境問題」をコンセプトに多彩な展示活動を繰り広げている。昨年の第6回は区立久松小学校を会場に開催され、企業・団体29、小学校6校が参加した。今年は10月9日、区立佃島小学校(中央区佃)で開催される予定。

 私たちの最大の目的は、健康で快適な地球環境を次世代に受け継いでいくことですから、子どもたちに期待するところがとても大きいのです。今年で7回目を迎える「子どもとためす環境まつり」も、そうした次世代の環境学習を応援したいという願いからスタートしたもので、体験型環境学習という点に私たちの思いが込められています。
 なぜ体験型なのかというと、子どもたちにとっては、テーブルに着いて難しい講義を聴くより、自分自身で触ったり見たりして体験するほうが楽しいし、何かの気づきを得る一番のきっかけ作りになるということです。そして、その気づきの中から、今すぐでなくても、電気を大切にするとか、生き物を守るといった心がどこかで育ってくるように願っています。参加団体もいろいろなアイデア企画で環境や資源の大切さを体験をさせてくれますが、企業の人も「手作りで子どもと一緒に楽しめるのが何より魅力」と評価してくれています

「子どもとためす環境まつり2009」の
会場風景

 学校のほうも、初めは会場を提供するだけでしたが、2回目の久松小学校(中央区日本橋)のときに「せっかく学校で開催するのだから子どもたちにも自分たちで発表してみたらどうでしょう」と提案したら、先生方も「じゃあ生徒も何か一緒にやるようにしましょう」ということになって、徐々に他の学校にも参加してもらえるようになってきました。もちろんPTAや地域の町会などにも協力をお願いしていますから、全体で1000人ぐらいの人がこのイベントに関わることになります。来場者の中には「自分も何かやってみたい」という人も出てくるし、そういう形でだんだんネットワークが広がっていくのはとても嬉しいことです。

●「サーモンプロジェクト」の取り組み

子どもたちが描いた
「環境まつり2009」のポスター

 それと、区立日本橋小学校で開催した第5回目(2008年)からは、このイベントを「サーモンプロジェクト」と関連させて展開しています。「サーモンプロジェクト」というのは、日本橋小の校長先生が「サケの稚魚が生まれた川に戻ってくるように、日本橋小で学んだ子どもたちが大きくなって、また日本橋に戻って活躍して欲しい。そういう思いで私は教育をしています」とおっしゃったのをキッカケにスタートしたもので、「環境まつり」で学習した子どもたちにも、いろいろな経験を通じて成長した後、再び中央区に戻って環境保全に取り組んでほしい。そして日本、世界、宇宙全体をよくしていってほしい、という願いを込めています。事前にプロジェクトに参加する子どもを募集して、「環境まつり」の当日、サーモンピンクのお揃いのTシャツで会場のサポートスタッフとして活躍してもらうのですが、こうした体験が糧となって将来1人でも多くの子どもが中央区に戻ってきてくれればと思います。
 昨年、第2回に続いて再び久松小学校を会場に選んだのもプロジェクトの一環みたいなものです。このときは学校の協力で、80人の4年生全員にイベントのポスターを描いてもらって校内に展示したのですが、どの作品も温暖化の問題や自然の大切さなどのメッセージを込めた素晴らしいものばかりで、先生方もびっくりされていました。この子どもたちは前回はまだ幼稚園生だったのです。それがこんなに凄い発想をするまでに成長していたなんて、「1回目の体験学習をしっかり身に付けて再び『環境まつり』に戻ってきてくれたんだな」と感じずにはいられませんでした。

●環境ボランティアは「宝の山」

ストップ温暖化アクション参加カード(子ども用の一部)

 ところで、いま私たちは「ストップ温暖化アクション参加カード」というものを区に提案しています。これは区が作成した「中央区版二酸化炭素排出抑制システム」(CO2抑制のために区民が無理なくできる取り組みをシステム化したもの。家庭用と事業所用がある)のミニ版のようなもので、電気の節約やごみの削減など生活の中で実践できたことを記録して「環境まつり」に持ってきてもらうとプレゼントがもらえるという仕組みです。私たちから見ると区のシステムはちょっとレベルが高すぎるので、もう少し敷居の低い皆が簡単に取り組める内容にして、大人用と子ども用の2種類を用意しました。こうした区と区民の間をつなぐというか、地球環境問題を身近に実感できるきっかけづくりも、私たちの大切な役目だと思っています。
 企業とも常に対話をしながら環境保全の努力を求め続けていきたいと思います。塩ビ業界にも、「子どもとためす環境まつり」や、先日の「第9回中央区ブーケまつり」(中央区で活動している様々なグループが活動成果を発表するイベント。6月25〜26日、中央区立女性センター「ブーケ21」で開催)などで、いろいろとご協力いただいていますが、これからもそうした体験の場を積極的に提供してもらいたいと期待しています。

中央区環境保全ネットワークとともに、塩ビ業界も参加した「中央区ブーケまつり」(中央が川名代表)

 最後に、環境ボランティアに取り組む人々へのアドバイスをひとつ。環境ボランティアの活動を維持していく上で何より大切なのは、組織としての和をいかに保つかということです。環境活動には様々な人々がそれぞれの思いを持って参加してきます。その中にはいろいろな技能の持ち主が多く、アイデア、発想も多彩で、まさに宝の山のようなものです。そういう人たちが、それぞれの意見をオープンにしながら自由に議論を進めて、最終的にひとつの合意に到達する。それができれば組織として長く続けていくことができます。環境に関して無駄な意見というのはないんです。代表の仕事とは結局、多様な意見の中からどこを吸い上げて、ひとつの和合体にまとめ上げるかということに尽きると思います。

中央区環境保全ネットワークの活動に敬意 
中央区環境部長 田中 武
 中央区は、平成20年3月に改定した「中央区環境行動計画」で、望ましい環境像を「水辺や豊かな緑と共生し、みんなで環境をよくするまち中央区」とし、その達成に向け、地球環境、都市環境など五つの基本目標を定めています。その中のひとつ「地域の環」では、区民・事業者・区が協働して、楽しみながら環境活動を実践しているまちをつくることを目標としています。
 中央区環境保全ネットワークの皆さんと区とは、毎年度開催している「子どもとためす環境まつり」を始め、日々の様々な活動において連携と協働を深めております。皆さんの活動を核として、まさに「地域の環」ができあがっています。
 環境保全ネットワークの日々の活動、積み重ねに敬意を表するとともに、今後ともその活動が隆盛となり、区との連携協働が一層深まることを願っております。



略 歴
かわな・かずえ
 明治薬科大学卒。薬剤師・主任ケアマネジャー。東日本橋で薬局、居宅介護支援事務所などを営む傍ら、中央区環境保全ネットワークの設立に参加。現在、同ネットワーク代表のほか、東京都環境学習リーダー連絡会、エコ・ビーイング(環境学習リーダー中央の会)、集団回収リサイクル虹会長など中央区の環境ボランティアの中心的役割を果たす。中央区地域包括支援センター運営協議会委員、清掃リサイクル推進協議会委員を担当。