2010年6月 No.73
 

育てエコ・マインド !
VECの小学生向け「環境出前授業」

テーマは「エネルギーとCO2」。環境教育の一翼担い、全国各地で展開中

枚方市立山田東小学校での授業の模様

 塩ビ工業・環境協会(VEC)では、環境教育支援活動の一環として小学校への出前授業に取り組んでいます。VECの担当者が全国各地の小学校に出向いて、エネルギーやCO2の話を楽しく、わかりやすく解き明かすもので、授業を受けた子どもたちの心には、早くもエコマインドの芽がすくすくと育っている様子。取り組みの経緯と最近の動きをまとめました。

●13都府県28校で実施。約2200人が受講

 VECの出前授業がスタートしたのは2005年7月から。当初は大学生を対象とした授業が中心でしたが、その後、高校生、中学生にも対象を広げる一方、2008年には、塩化ビニル環境対策協議会との共同で小学校高学年向け教材『かんきょうワークノート』を作成。教師用副読本『環境最前線』(2005年発行)と一緒に全国の小学校1万校に配布して出前授業の希望を募ったところ、各地の学校から相ついで要望が寄せられたため、2009年から小学校を中心とした取り組みが進められることとなりました。
 これまでにVECの出前授業を実施した学校は、2009年1月〜2010年2月の1年余りで13都府県の28校、受講した生徒数は延べ約2200人に上ります。対象は主に5、6年の高学年生ですが、中には3、4年生を対象としたものもあり、総合学習や社会科、家庭科などの時間を利用して、クラス単位あるいは数クラス合同の授業が行われています。
 講師を担当しているのは、VECの木下広報WGリーダーと一色環境広報部長の2人。授業のテーマは「エネルギーとCO2の話」に統一していますが、その狙いについて木下リーダーは、「我々が生活の中でどれだけ多くのエネルギーを使い、それがCO2の発生にどのように関係しているのかを、分かりやすく子供たちに伝えることが我々大人の使命と考えている。話に生徒たちも皆素直に驚く。これは、こんなに大量のエネルギーを使用していることを知らなかったからであって、子供の頃に聞いたこのような話が、大人になったとき必ず何か役に立つと信じている」と説明しています。
 VECの出前授業には、化学業界が率先して取り組む環境教育活動の事例としてメディアの関心も高く、これまでに全国紙や地元ミニコミ紙などで度々授業の模様が報道されています(次頁の囲み記事)。


●枚方市立山田東小学校で2度目の出前授業

 では具体的な取り組みの内容を、去る1月22日、木下リーダーを講師に、大阪府枚方市の山田東小学校(校長=中塔忍氏)で行われた授業から見てみることにします。同校は環境教育に非常に熱心な学校で、VECの出前授業も2009年2月に続いてこれが2回目。前回の授業は家庭科の時間を利用して行われましたが、今回は総合学習の時間が充てられ、5年生2クラスの60名のほか、1日参観日で学校を訪れていた保護者の一部も授業に参加しました。

枚方市立山田東小学校

 授業時間は午後2時25分から3時10分までの45分。生徒たちの元気な拍手に迎えられた木下リーダーは、46億年前に誕生した地球にやがて森林が生まれ、数億年の年月をかけて樹木や海中の微生物から石油や石炭が作り出されたこと、長い間太陽エネルギーだけで生活してきた人類は19世紀に石炭、20世紀に石油を利用するようになったこと、などスケールの大きな視点から次第に身の回り問題へと話を展開。「石油を燃やすとCO2が発生するが、一方で衣食住や交通機関、家電など現代の社会が石油の恩恵で成り立っている。プラスチックも石油で作られる化学製品のひとつ」と説明した上で、プラスチック製品のサンプル(ポリエチレンの原料や塩ビ管、厚さ5cmのアクリル板など)を回覧すると、生徒たちは興味津々の表情でサンプルに見入っていました。
 また途中には、正解すると塩ビの消しゴムがもらえるクイズや、ローソクの炎に白い皿をかざして炭素の発生を確認する実験の時間なども設けられましたが、中でも、日本で1日に消費される石油(約68万トン)を25mプールに換算したり(1260杯分)、日本が石油や天然ガスを輸入している国々(中東や東南アジア)を地図で探したりするクイズに生徒の関心は一気にヒートアップ。隣同士で答えを確かめ合ったり、立ち上がって地図の画面を覗き込んだりして、貴重な石油を毎日大量に使っている自分たちの生活を改めて実感できた様子でした。

● 「地球は何で青いの?」元気一杯の質疑応答

ロウソクの火を利用した実験

 続く質疑の時間では、生徒の中から率直かつ真剣な質問が続出。「地球は何で青いの?」「光に含まれる7色の中で波長の短いブルーの光が大気で散乱され、それを人間の眼が捕らえるから」、「CO2を減らす方法は?」「なるべくエネルギーを使わない生活をすること」、「地球温暖化の原因はCO2だけ?」「CO2原因説は有力だが、100%分かっているわけではない」、「温暖化は無くならないの?」「CO2以外にも原因があるとすると将来また氷河期が来るかもしれない」など、木下リーダーとの間で元気いっぱいのやり取りが交わされました。

授業が終わった後も質問攻め

 最後には、「私たちの生活は、世界中から輸入したエネルギーに支えられています。更にそれらのエネルギーを使用すると必ずCO2が発生します。このCO2が地球温暖化の原因ではないかといわれています。このような状況の中で、私たちは未来に向かって何をすれば良いのでしょうか」という「まとめ」の文章をみんなで一緒に朗読。木下リーダーが「これが私から皆さんへの最後のメッセージです」と授業を締めくくると、生徒や保護者から盛んな拍手が贈られました。参観した母親の一人は「石油の大切さがよくわかって大人にもいい勉強になりました」と感想を語っていました。

★専門的なことを分かりやすく。子どもの印象に残る出前授業(中塔忍校長のお話)

 総合学習の時間では、3年生から6年生まで個別の学習テーマを定めていますが、中でも5年生で扱う環境問題は最も大切なテーマのひとつです。今回、塩ビ工業・環境協会に出前授業をお願いしたのは、石油エネルギーとCO2発生の関係、あるいは自分たちが日常使っているプラスチックという素材はどういうものなのかを知ることで、生徒の環境意識を高めていきたいと思ったからです。また、本校では環境教育の一環としてペットボトルのキャップを集めてその売却益を世界の恵まれない子どもたちに贈る運動に取り組んでいることもあって、そうした学習が運動の動機づけにもなると考えました。
 環境教育には高度な専門知識を要求される場面が少なくありません。そういう意味では、外部の専門家を講師に招いて行う出前授業は非常に効果的だと思います。専門的なことを分かりやすく教えてもらえるので、生徒の印象に強く残るし、現場の教師にとっても役に立つ部分が多いのです。もちろん、1回の授業だけですぐに知識が身に着くというものではありませんが、今回教えてもらったことは、また他の環境教育や社会科の授業の中で生かすことができます。そうした形で授業をリンクさせていく中で、子どもたちの環境意識も自然に高まっていものと期待しています。

 

★日本経済新聞の報道から(兵庫県山崎南中学校の事例)

  日本経済新聞2009年12月8日付けの記事(部分)

 VECの環境出前授業については、兵庫県宍粟市の山崎南中学校での授業(2008年11月11日)と、茨城県水戸市の双葉台小学校での授業(2009年11月1日)が、いずれも日本経済新聞で報道されたほか(掲載日は2008年12月9日および2009年12月8日付け)、地元のミニコミ紙などに取り上げられるケースも見られます。
 このうち、双葉台小学校での取り組みを報じた記事は、同校体育館を会場に5年生129人を集めて行われた授業の模様をまとめたもので(講師は一色部長)、エネルギー資源の枯渇問題や、CO2と温暖化などをめぐる一色部長の話に反応する子どもたちの様子が生き生きと伝えらています。また、「みんな実に真剣に関心を持って聞いていたし、いい質問がたくさん出た。楽しい授業でした」という黒沢祐一校長の言葉からは、VECの取り組みへの現場からの評価が窺われます。