2010年3月 No.72
 

太平洋セメント(株)藤原工場の廃棄物リサイクル事業

廃プラなど年間約676万トン、
多種多様な廃棄物・副産物を安全に再資源化

太平洋セメント藤原工場のセメントキルン
 様々な廃棄物をセメントの原料や燃料として再資源化するセメント業界の取り組みが注目を集めています。業界最大手の太平洋セメント(株)(本社=東京都港区)は、年間約676万トンの廃棄物や副産物を再資源化する、この分野のトップランナー。同社の藤原工場(三重県いなべ市藤原町東禅寺1361−1/TEL 0594−46−2511)の取り組みから、廃プラスチックのリサイクルを中心に事業の現状をレポートします。

●セメント工場はライフラインの一部

 2008年度における日本国内のセメント総需要は約5000万トン。ここ数年、景気後退などの影響で需要の減少が続いているものの、セメントは依然として現代社会に不可欠な工業製品のひとつです。一方、廃棄物のリサイクル拠点として、近年セメント工場の役割が大きくクローズアップされるようになっています。独自の設備と技術を生かして様々な廃棄物を大量かつ安全にリサイクルできるセメント工場は、最終処分場の延命や天然資源の節約、温暖化防止など社会の環境コスト低減に大きく寄与することが期待されているのです。
 そうしたリサイクル事業に早くから意欲的に取り組んできたのが、今回取り上げる太平洋セメント。中でも藤原工場は、名古屋、四日市といった大都市工業圏に近接することから、同社の全国7工場の中でも最も活発に事業を展開しており、リサイクルする廃棄物の種類も石炭灰、建設発生土、鋳物砂などの原料系から、廃油、廃タイヤ、廃プラ、ASR(自動車シュレッダーダスト)などの燃料系まで多岐にわたり、取引先の数は20業種900社にも及びます。また、近隣の自治体から下水汚泥や都市ごみ焼却灰、RDF発電の飛灰などを受け入れることで、これら生活関連施設の円滑な操業を手助けする役割も果たしており、「三重県からはライフライン事業者と見なされている」(玉重宇幹工場長)といいます。
 2008年度の実績では、太平洋セメント全体でリサイクルした廃棄物・副産物の量はセメント1トン当り390kg。これに対して、藤原工場単独では467kgと群を抜いて高く、その旺盛な取り組みぶりを裏付ける結果となっています。

●1500℃の高温燃焼で有害物質も分解

藤原工場の廃棄物リサイクルフロー

 セメントの製造は、@原料の石灰石、粘土、珪石などを調合し原料ミルで粉状に粉砕する「原料工程」→Aセメントキルン(焼成窯)で原料を焼きクリンカと呼ばれる粒状の中間製品を作る「焼成工程」→Bクリンカを仕上げミルで粉砕する「仕上げ工程」、の順で進められます。
 このうち、特に廃棄物のリサイクルの鍵となるのが焼成工程で、藤原工場の場合は、現在稼動中の2本のセメントキルン(5200トン/日と2600トン/日)を用いてリサイクルが行われています。その処理フローは図に示したとおり。各種廃棄物のうち、石炭灰、汚泥、焼却灰、鋳物砂などは、RSPタワー(キルンの廃熱を使った余熱装置)を経てキルン内で焼成され、原料として取り込まれる一方、高い発熱量を持つ廃タイヤ、廃油、廃プラスチック、ASRなどは、熱エネルギーの一部として再資源化されます。キルン内の燃焼温度は約1500℃という高温で、多種多様の廃棄物を処理しても、ダイオキシン類などの有害物質は分解され、大気汚染物質が排出される心配はありません。

●廃プラスチックの処理状況−塩素対策も万全

廃プラスチックは2〜3mmに破砕

 廃棄物の投入箇所は、それぞれの用途、性状などによりキルンの後側(入口側)と前側(出口側)に分けられますが、廃プラスチックは、成形品などサイズの大きいものを除き、バーナーのある前側から吹き込まれます(図参照)。これは燃焼効率を高めるためで、廃プラスチックについてはこのほかにも、専用の破砕機で1次、2次破砕を行ってサイズを調整するなど、効率化のための前処理技術が用いられています。
 廃プラスチックのリサイクル量は年間約1万トン。種類としては、セロファン、ポリプロピレンなど燃えやすい軟質系のものがメインで、塩ビ単体の処理は行っていませんが、ASRなど塩素分が高く、多種類の混合物で活用が難しい廃プラスチックも多く処理されています。同工場では、原燃料中の塩化物由来の化合物による炉内閉塞などのトラブルを起さないよう、既に15年以上も前から塩素バイパスシステム(設備の系外に塩素を抽出する装置)を導入し、キルン操業安定化を図っています。このほか、RDF発電の飛灰など塩素分の高いものは予め水洗して脱塩処理するなど、高塩素含有廃棄物の受入れ対策が充分に採られています。

●化石燃料の削減へ、高塩素廃プラの受け入れ強化も

お話を聞いた関係者の皆さん。
中央が玉重工場長
 

 藤原工場では、2007年度までに熱エネルギーの約4割を廃プラスチックなどのリサイクル資源に置き換えてきていますが、化石燃料の削減をさらに進めるため、引き続きリサイクル燃料比率の引き上げを検討中。粉砕した廃畳と木屑、廃油を混ぜたBOF(バイオマス・オイル・フューエル)の製造設備を2006年から稼働させていることも、そうした試みのひとつと言えます。
 ただ、2007年以降、石炭価格の高騰や景気後退の影響などで、廃プラスチックなど燃料系リサイクル資源の入手が難しくなっているため、太平洋セメントでは、新たな技術を駆使して塩ビなどが含まれる高塩素廃プラスチックなどの受入れを強化していく方針です。

★ 人の命と環境を守る−太平洋セメント藤原工場 玉重宇幹工場長(談)
今年(平成21年)の夏も水害などで多くの人命が失われた。その中には、護岸などがしっかりしていれば失われずに済んだ命も少なくないだろうと思う。そういうことを考えると、人の命、生活を守るという意味でセメント、コンクリートの役割はまたまだ大きいと思うし、一方では、廃棄物を資源化して環境保全に貢献していくという役割も大きくなっている。人とセメント・コンクリートは決して対立関係にあるのではない。我々は人々の命を守りつつ、廃棄物を何とかしてほしいという社会の声に応えていく使命を担っている。
 当工場は太平洋セメントの中で最も古くから廃棄物リサイクルに取り組んできたが、産業構造の変化に伴って廃棄物の中身も変わってきている。今後は新しい技術を駆使して事業の間口を広げ、高塩素含有廃プラスチックについても処理困難物などと言わずに済むようにしたいと思う。同時に、顧客との信頼の根本である品質の維持にも努めなければならない。また、リサイクル資源を活用しながらの工場操業は、近隣住民、行政の理解が不可欠であり、そのための環境情報の公開、懇談会や見学会の開催などにより、コミュニケーションの緊密化と信頼関係の維持にも努めていきたい。廃棄物のリサイクルは我々業界に課せられた責務であり、当社がこれから生き残っていく上でもこれ以外に道はないと思う。