2010年3月 No.72
 

「塩ビリサイクル支援制度」採択案件の成果

マテリアル・ケミカルリサイクルなどの新技術・システム開発で収穫あいつぐ

 塩ビ工業・環境協会(VEC)と塩化ビニル環境対策協議会(JPEC)が、2007年5月に公表した『リサイクルビジョン−私たちはこう考えます−』に則して、VECは塩ビのリサイクルを進めるための支援制度を展開中。マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルなどに関する新技術・システム開発で収穫があいついでいます。

●採択案件は計5件。うち3件が開発終了

 硬質製品から軟質製品まで幅広い用途で使われている塩ビは、一方で最も古くからリサイクルが行われてきたプラスチックでもあります(農業用ビニルなど)。しかし、用途の多様化に伴って原料の配合内容が変化したり、他の樹脂等との複合製品が増加したりといった問題がリサイクルを困難にしている場合があり、塩ビ業界では、こうした様々なケースに対応して、それぞれに適したリサイクル手法の開発を関係業界と共同で進めてきています。
 『リサイクルビジョン』は、塩ビのリサイクルを一層進展させるための環境づくりに、業界としてさらに積極的に取り組んで行く姿勢を表明したものです。VECは2007年9月に、その具体策として「塩ビリサイクル支援制度」を創設。関係企業・団体から塩ビのリサイクルに関する技術開発やシステム構築などのアイデアを公募し、先進的と認められる案件を資金面も含めてバックアップしていく取り組みをスタートさせました。以後、これまでに採択された案件は5つ。うち3件が2009年度末までに開発を終了しており、2件が2010年度中に完了する予定となっています。ここでは既に開発が終了した案件を中心に、現在までの成果の概要を紹介します。


アールインバーサテック(株)
「複合塩ビ廃材のマテリアルリサイクルシステムの開発」

ターポリンシートなど塩ビと合成繊維の複合製品も瞬時に微粉化して素材別にリサイクル

システムの全景
 
 
  処理対象となる塩ビ複合材の構造

 この案件は、リサイクルの難しい塩ビの複合材を、高速遠心叩解(こうかい)法と呼ばれる新技術を用いて瞬時に微粉化し、各素材を高純度に分離、再資源化するシステムの開発をめざすもの。その斬新な発想は、塩ビ壁紙やタイルカーペット、ターポリンシートなど、塩ビと他の素材が強固に密着または含浸(塩ビ層の中に合成繊維層が埋め込まれた状態)した複合製品のマテリアルリサイクルを大きく加速させる可能性を秘めています。高速遠心叩解法とは、薬品処理などを伴わずに接着界面部分を「叩いて分離する」技術ですが、この基本技術はVECの支援対象となる前に完成しており(アールインバーサテックと明治大学理工学部の建築材料研究室、東京都産業技術研究センターとの共同開発)、2009年から塩ビ壁紙専用のシステムとして事業化されています(本誌No.69参照)。

 今回、VECが支援を行ったテーマは、このシステムをさらに一歩進めて、タイルカーペットやターポリンシートなどの処理にも対応した汎用性の高いシステムに改良することで、特に、強度の大きい合成繊維を効率的に回収するための前処理技術の開発などがポイントとなりました。

●「切る、むしる、ちぎる」一連の前処理工程をライン化

 処理対象の塩ビ複合材は、前処理工程(10mm角程度に細片化)⇒ 叩解工程(廃材を粉体化)⇒ 精密分離工程(塩ビ樹脂と合成繊維、パルプ等に高純度分離)という流れで再資源化されます。以下、改良された主な技術的ポイントを工程に沿ってまとめました。

・前処理機能の向上で叩解能率もアップ
 予め処理品の繊維部分に切り目を入れるパーシャルカット機能、繊維をむしりとる粗分離機能、特殊形状のシリンダー刃で引きちぎる細片化機能、という様々な前処理技術をライン化。叩解工程に入る前にポリエステルなどの合成繊維をできるだけ回収することで、次の叩解工程の能率もアップしました。叩解工程では、高速回転する金属製の叩解工具の衝撃により塩ビは300ミクロン以下の微粉に、合成繊維(前処理で残った分)は数ミリ大に離解しますが、前処理で余分な繊維を除いているため、よりきっちり叩解、リサイクルできるようになったわけです。また、前処理設備の導入により通常の破砕機・粉砕機より電力消費が大幅に削減できる点も特長のひとつです。

・タワー型+分流型の風力分離で精密分離もさらに高度に

 最後の分離工程では、通常のタワー型風力選別に加えて、樹脂粉と繊維を分流する機構を併用。叩解された塩ビの微粉と合成繊維が混じった気流をその機構に導入すると、樹脂微粉と繊維の流れ方の違いによって、樹脂微粉を含むものと繊維分を含むものとに別れる仕組みで、これにより非常にコンパクトな分離設備でより高純度の再生原料が得られるようになりました。
 なお、同システムを導入したリサイクル事業が、埼玉県八潮市(壁紙)、羽生市(ターポリンシート)、兵庫県姫路市(壁紙)など全国5ケ所で既にスタートしており、壁紙由来の塩ビ再生原料は防水シートなどいくつかの用途で再利用されています。

 


(株)クレハ環境
「塩ビ壁紙廃材を原料とする吸着性炭化物の製造」

使用済み塩ビ壁紙をまるごと活性炭化してダイオキシンの吸着剤などに再利用

 この案件は、使用済み塩ビ壁紙のケミカルリサイクルの取り組みとして採択されました。塩ビと紙の複合材である塩ビ壁紙廃材をまるごと熱分解(活性炭化)して、その炭化物をダイオキシン類の吸着剤や脱臭剤などに幅広く利用しようというユニークな試みで、クレハ環境では、2003年から技術開発に着手、ラボ実験、ベンチ試験などにより技術の有効性を確認した上で、VECの支援制度に応募したものです(パイロット実験の概要などは本誌No.64参照)。
 その開発テーマは、@パイロットプラントで最適炭化条件を確立し、商業用プラントの基本設計を可能とすること、A吸着性炭化物の用途開発のための適正処理条件を確認すること、の2つ。今回の成果により、新たなアプローチで様々な汚れのある塩ビ壁紙廃材のリサイクルに道を開くことが期待されます。

●市販活性炭と同等のダイオキシン吸着性能

 まず炭化物製造の処理フローを簡単にまとめておくと(下図参照)、破砕した塩ビ壁紙を炭化炉に投入して約600℃の窒素雰囲気下で加熱処理(蒸焼き)することで吸着性の高い多孔質の炭化物ができあがります。この孔が出来ることで、ダイオキシン類など分子サイズの大きい物質に対して市販活性炭と同等の吸着性能が発揮されます。また、水洗工程は加熱中に生成される塩化カルシウム(後述)を洗い落とすためのものですが、塩化カルシウムを水洗せずに、アンモニアなどに対するその脱臭特性を生かしてペットの排泄物脱臭剤などに利用することも可能です。
 今回の取り組みで得られた成果としては、技術的に次の2点が挙げられます。

<固定型内部攪拌式炭化炉の採用で自在な運転が可能に>
 蒸焼きのために厳密な無酸素状態を必要とすることから、ロータリーキルンではなく固定式の円筒型炉を採用。さらに炉の内部に正転/逆転可変方式のスクリュウを組み込み、これに高度の撹拌機能などを付加したもの。スクリュウの回転を調節(前送、逆送)して滞留時間を変化させて確実に炭化するなど、自在にいろいろな運転ができるようにして、量産設備設計に役立つデータが充分に得られるものとなっています。

<塩化カルシウムの有効利用も可能>

パイロットプラント全景

 塩ビを加熱する過程で発生する塩化水素は、壁紙中に充填剤として含まれる炭酸カルシウムと反応して塩化カルシウムとして捕捉されるため、排ガス中の塩化水素の中和処理コストが大きく低減されます。塩化カルシウムはアンモニアの脱臭効果があるほか調湿剤、アスベスト無害化助剤などに利用することができます。
 クレハ環境では今後パイロットプラントの運転を継続しつつ実機(年間1万トン処理)の建設に向け日本壁装協会と連携し、中核技術のモデルとして壁紙リサイクルに取り組んでいく計画です。


開発終了案件
住江織物(株)『PVCタイルカーペット廃材のリサイクルに関する研究』

 塩ビタイルカーペットの工場端材、さらには使用済み品も視野に、その再資源化技術を構築する取り組みで、再生塩ビを様々な用途に使用するための添加物投入運転制御技術を確立。現在、本格的な量産プラント建設による大規模リサイクルへ向けてハイペースで事業化が進められています。

進行中案件
積水化学工業(株)『塩ビリサイクル材料を用いたフラクタル日除け』

 技術開発ではなくリサイクル製品そのものを支援対象とした案件です。木の葉を模した塩ビの部材を組み合わせて木陰の涼しさを人工的に再現しようとする試みで、ヒートアイランド対策として既に各界から注目が高まっています。原料には硬質塩ビ製品のリサイクル材を利用。現在、公園や駐車場の日除け設備など、本格的な市場開発が進められています。

進行中案件
山本産業(株)『PVCタイルカーペット廃材のマテリアルリサイクル技術の開発』

 この案件は、タイルカーペットの工場端材などから分離、回収した塩ビ樹脂をゾル加工(流動体化加工)用のペーストレジンとしてリサイクルする新たな試みです。リサイクル品は各種のシート・マットの加工などの幅広い用途に利用されます。

今後の塩ビリサイクルに大きな刺激 (VECリサイクルWGリーダー 阪内孚史 氏)

 多様な用途を有する塩ビは、廃棄物の形態も多岐にわたる。単体か複合材か、あるいは排出時の汚れや分別の有無といった違いに応じて、リサイクルにも様々な技術が必要となるが、それをVECや製品メーカーが単独で考えるのは容易なことではない。そこで、関係者から多様な技術のアイデアを募り、それを支援することでリサイクルを前進させたいという思いもあって「リサイクル支援制度」を創設した。実際に募集した結果、処理の難しい複合材などのリサイクルに挑戦する案件が多数集まってきた。
 採択したテーマは、偶然とは言え、全て塩ビのメインマーケットである建材分野に深く関わっているリサイクル技術という点で期待が大きい。また、高速遠心叩解技術は、「リサイクルビジョン」の中で示された「複合材のリサイクルについては分離技術の開発が必要」というニーズをそのまま実現した内容となっている。
 なお、開発を終了した案件のうち2件は、VECの支援対象となる以前に、(社)プラスチック処理促進協会の支援を受けて技術の芽が出たもので、このことが今回の成果の土台となっていることを付言しておきたい。
 いずれにしても、「支援制度」本来の狙いに沿った採択案件ばかりで、今後の塩ビリサイクルの進展に大きな刺激を与えるという意味で、良い案件が揃ってくれたと感謝している。挑戦的な応募を期待したい。(談)