2009年12月 No.71
 

大成建設(株)のエコモデル・プロジェクト/
平河町森タワー

リサイクル率99.4%。混合廃棄物の大幅減を実現したゼロエミッョン活動

建設が進む平河町森タワー
 大成建設(株)(本社=東京都新宿区)は、東京都の「平河町二丁目東部南地区第一種市街地再開発事業」において建築を進めている平河町森タワー/レジデンスをエコモデル・プロジェクト(下の囲み記事参照)に選定し、意欲的なゼロエミッション活動を展開中。現場で発生する廃棄物の徹底分別と再資源化により、リサイクル率は驚異の99.4%を達成した。再資源化が難しいとされる混合廃棄物の大幅削減は如何に達成されたのか。現場の担当者にお話を伺いました。

●混合廃棄物の発生量は総排出数量の2.2パーセントに

 千代田区の平河町界隈は、国会議事堂や中央官庁の合同庁舎などが林立する政治、行政の心臓部。平河町二丁目地区の再開発事業は、そうした街の景観にふさわしい質の高い業務・生活空間を整備しようというもので、大成建設が施工を担当する平河町森タワーは、文字どおりその中核となる施設です。同タワーは地上24階地下2階、延べ床面積約5万2000m2。2007年8月に着工され、現在、今年(2009年)12月の竣工へ向けて大詰めの作業が進められています。
 注目のゼロエミッョン活動については、着工以来、現場から発生した各種廃棄物2960.2トンのうち、実に2941.2トンをリサイクルしたほか、混合廃棄物の排出量を全体数量に対して重量比2.2パーセント(64.7トン)にまで抑制するなど、きわめて高い実績を達成しています。(2009年9月末時点)

●廃棄物を65分別。塩ビ建材も適切にリサイクル

 こうした高次元の排出抑制を可能にした第一の要因は、現場での徹底した分別作業にあります。工事最盛期における分別品目数は、軍手、作業服等の一般廃棄物11品目と、コンクリートがら、金属くず、木くず、廃プラスチック等の産業廃棄物54品目の計65品目。竣工が近づくにつれて品目数はやや減少しているものの、その分別の細かさはゼネコン各社の中でも突出したやり方といえます。特に、材質がまちまちで、種類の多い廃プラスチック建材は全部で17品目にも分けられており、その中には塩ビ管をはじめタイルカーペットや壁紙、コーナー材、電線被覆などの塩ビ建材も含まれています。
 これらの廃棄物は、地階の分別ヤードに集められ、品目ごとに番号を記した回収容器に振り分けられますが、プラスチック系の嵩張るものは現場に設置した圧縮機や溶剤などで極力減容化した上、各種の再資源化施設でマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル等の最適な処理が行われます。ちなみにタイルカーペットについては、本誌でも度々取り上げたリファインバース(株)で、再度タイルカーペットの裏打ち材にリサイクルされているとのことです。

品目別にナンバーが振られた回収ボックスやカゴがずらりと並ぶ分別ヤード

 「我々の取り組みの最大の狙いは、可能な限り混合廃棄物を減らして埋立ゼロに近づけること。分別品目数が増えたのもそのためで、混合廃棄物はふるいがけをして、ちょっとでも目に付くもの、手で拾えるものは徹底して分別するという方法を突き詰めた結果、発生量を当初の計画の10分の1近くにまで減らすことができた。(社)建築業協会が調査した混合廃棄物の発生原単位の平均値15kg/m2(2006年に完成した首都圏の新築工事708物件の平均)に対して、当作業所の数字は1.24kg/m2と平均を大きく下回ることができた」(大成建設東京支店の源一臣課長代理の説明)

現場分別された廃棄物

塩ビ管(左)と電線被覆の回収ボックス

 

●現場作業員の意識改革も大きな力に

 
源課長代理

 ゼロエミッョンを進める上では、現場の作業員全体の意識改革と関係者の協力が大きな力となっているようです。源課長代理の説明では、作業員の意識を高めてもらうために、職長会(作業員リーダーの組織)が中心となって環境分科会を立ち上げ、定期的にパトロールを行って現場の片付け状況や分別状況をチェックしたり、分別大会や中間処理施設見学会を実施したりと、自己啓発の機会も含めて様々な取り組みがなされています。
 また、分別ヤードの管理には、収集運搬と中間処理を担当する産廃処理業者の協力で、同社の社員を分別指導員として現場に常駐させ、ごみの種類の見分け方や捨て方などをアドバイスするといった取り組みも行われており、「こうした対策によって作業員一人一人に分別意識化が浸透して現場全体の体制が整っていった」と感想を述べていました。
 取材当日も、分別されたPPバンドやシート類、紐類などを分別ヤードまで取りに来てリユースしたり、混合廃棄物をふるいにかけて入念に選り分けている作業員の姿が見られ、その分別意識の定着を実感することができました。
 源課長代理は、「ゼロエミッョンはシステムを作るだけでは決して進まない。現場の作業員一人ひとりが意識を高めて、全員が自然体で取り組めるように意見や理解を求めつつ先に進むことが肝心だ。当プロジェクトは、大成建設のエコモデル・プロジェクトに選ばれた作業所の使命として、全国の作業所の中でも環境活動の模範となるべきものであり、活動成果を積極的に情報発信していきたい。同時に業界全体に対する模範として、外に出しても恥ずかしくない現場であり続けようと思う」と語っていました。

 

●分別データを廃棄物のリデュースに活用

 一方、分別データの管理システムも、関東資源循環センターの注目すべき取り組みのひとつ。新築現場で分別された廃棄物には、袋詰めの際に施主情報や販売店情報を入力したQRコードラベルが貼付されており、センター内に搬入された後は、それぞれの選別ステーションに振り分けられて、ラベルの読み取りと計量測定が行われます。
 これにより販売店別、施主別、品目別に正確な排出量が把握され、そのデータはオンラインで本社の開発部門にフィードバックされて、廃棄物の減量化(リデュース)を進めるための貴重なデータとして役立てられています。
 また、10分別された廃棄物は、選別ステーションでさらに細かく分別され(計30品目。うち廃プラスチックは、塩ビ系、ポリエチレン、発泡スチロール、その他廃プラスチックなど13品目)、圧縮、減容などの処理を経て、専門の業者の手でリサイクルされることとなりますが、塩ビ系廃棄物としては塩ビ管、床材、電線被覆、壁紙、雨どいなどがあり、再生塩ビ管や床材の原料などに再利用されています。また、その他廃プラスチックの一部は、ミサワホームのリサイクル素材「M-Wood」(廃木材の微粉と廃プラを混合した新建材)や、RPF(固形燃料)の原料として再利用されます。
 関東資源循環センターでは、30品目を間違いなく分別するために、分別訓練道場と名づけた研修会を定期的に実施するなど、社員教育にも力を注いでいます。

 
混合廃棄物をふるいにかけて入念に分別

 広々としたセンターの構内では、荷下ろしされたモジュール・パレットを各選別ステーションに届けるバッテリー式牽引車「こまわりくん」が動き回り、整然と区画されたレイアウトも含めて近代的な工場を思わせます。ちなみに、この「こまわりくん」も、空に成った後は各ステーションから出る処理品を積んで保管場所に戻すのが役目。前述した広域回収ネットワークと同様、構内においても小さな循環の輪が作られているわけで、こうした効率性の追求も同センターの特徴のひとつといえます。


◆大成建設の環境活動

 大成建設では、CSRに取り組む上での基本方針となる企業行動憲章(2007年8月制定)に基づき、重要な取り組み分野については個別の方針を制定して企業活動を展開している。環境については、「ゼロエミッションを目指した建設副産物の発生抑制・リサイクル・適正処理を推進し、環境への負荷の低減に努める」ことなどを定めた環境方針があり、その一環としてエコモデル・プロジェクトを推進している。
 このプロジェクトは、全国の12支店それぞれで建築1、土木1の事業を選定し、環境配慮設計、施工段階でのゼロエミッション、CO2削減などを目標に現場ごとに独自の取り組みを行うもので、各現場で得られたノウハウや技術、取り組み体制などは、社内で水平展開し情報の共有化が図られている。現在、全国で建築15、土木10のプロジェクトが進められているが、平河町森タワーの取り組みは社内でも先進的事例のひとつとされており、他の現場からの注目も高い。