2009年6月 No.69
 

潮風から島の家を守れ。
“塩に強い”塩ビサイディングの出番

伊豆大島で実証プロジェクト進行中(樹脂サイディング普及促進委員会)

塩ビサイディングで改修した曾根さん宅
 太平洋の潮風を四方から受ける伊豆大島の人々にとって、塩害による家屋、家財の損失は大きな悩みの種。そんな悩みの解消へ向けて塩ビの貢献をめざすプロジェクトが、いま樹脂サイディング普及促進委員会によって進められています。名づけて「伊豆大島塩害プロジェクト」。民家の外壁に塩ビサイディングを施工して、激しい塩害から守ることを実証しようというもので、“塩に強い”塩ビサイディングの本領発揮と言うべき試みです。

●コンクリート建物の塩害

塩害で剥落したコンクリート外壁(左)。柱には大きな亀裂が(大島元町付近)

 大島では、家屋の外壁材として昔から杉の板が多く使われてきました。現在では、こうした伝統的建築法に代わって、コンクリートや窯業系サイディング(セメント質と繊維質が主原料の外壁材)などが主流となっていますが、島の中を歩いてみると、そうしたモダンなコンクリート建築物の壁面が激しく剥落していたり、柱や梁に大きな裂け目ができていたりといった光景があちこちで目に付き、塩害の深刻さを知ることができます。
 こうしたコンクリートの塩害は「爆裂」と呼ばれています。壁に付着した塩素が内部に浸透することによって鉄筋が錆び膨張することで壁面に亀裂が走る現象です。また、塩害とは別に、コンクリートには中性化という問題もあります。これは空気中の炭酸ガスや酸性雨などが強アルカリ性のセメントを劣化させる現象で、三原山という活火山を抱える大島にとっても無縁ではありません。
 これに対して、塩ビサイディングの原材料である塩ビ樹脂は化学的に安定なため塩の影響を受けにくく、表面から塩分が浸み込む心配も無用。工法上も継ぎ目や隙間から水が入りにくい雨仕舞いのいい設計となっており、寿命が長く変色しにくいといった特長も含めて、長く美しい外観を保つことができます。火山ガスによる酸性雨などに強いことも塩ビサイディングの特長のひとつです。
 塩ビサイディングが塩害に強いことは樹脂サイディング普及促進委員会が行った試験などによっても確認されていますが(同委員会のホームページ参照。http://www.psiding.jp/speciality.html)、大島のような島嶼地方でこそ、よりその本領が発揮されるのではないか。そのことを実際の民家をモデルに証明してみようというのが、「伊豆大島塩害プロジェクト」の最大の目的です。

●築100年の長期住宅を塩害から守る

現状を説明する曾根さん
(左上は工務店の宮崎さん)

 プロジェクトにご協力いただいたのは、大島町野増にお住まいの曾根誠一さん。三原山の山すそに広がる野増は大島でも最も歴史の古い地域で、曾根さんのお宅も築100年以上という長期住宅ですが、塩害対策として3年に1回程度はペンキを塗り替えるなど小まめなメンテナンスが欠かせません。その外壁面すべてに塩ビサイディングを施工して、経過を観察するのが今回のプロジェクトの内容です。
 「外壁が傷んできたのでそろそろペンキを塗り替えようと思っていた矢先、工務店に勤める弟を通じて委員会からプロジェクトへの協力を要請された。初めて使う建材ではあったが、島の生活の助けになるのならと思ってすぐ協力する気になった」(曾根さん)
 リフォーム工事は昨年(2008年)10月〜12月にかけて行われましたが、サイディングの施工に掛かった期間は延べ10日程度。施工を担当した工務店の宮崎清志さんも「軽くて工事が楽だし、手ノコで簡単に切断できるのもありがたい」と塩ビサイディングの施工性を評価しています。

トタン板にこびりついた塩の結晶

 「大島は冬場、南西の風が殊に激しく、強風に乗って雨のように海水のしぶきが降ってきて、外壁や雨戸の一面に塩の結晶がこびりつく。コンクリートブロックが崩落して死亡事故が起きたこともある。トタン板を外壁に使っている家もあるが、毎年塗装しないとあっという間に錆びて腐ってくる。塩害に強い塩ビサイディングは、ペンキを塗る手間が省けてメンテナンスもほとんど必要ないことが何よりの魅力。また、家本体と壁との間に隙間ができるので、冬は暖かく、雨が降っても風の強い日でも音が気にならない。まだ施工して半年も経っていないが、やってよかったと思う。環境省の関係者も視察にきたし、近所の人もよく見に来る。これから島で塩ビサイディングを使うケースは増えてくると思う」(曾根さん)
 なお、今回の実験では塩ビサッシも1ヶ所施工して結露の状況などの調査を行っています。曾根さんのお話では「大島も冬は寒くなるが、別の部屋のアルミサッシに比べると結露はほとんどない」とのことです。
 樹脂サイディング普及促進委員会では当面、1年を通して外観の様子を観察しながら、塩害防止効果や冬場の風の影響と断熱性、施工に使った金属の止め具の錆具合などについてデータ採集に取り組む計画。塩に強い建材・塩ビサイディングに対する関係者の関心は高く、伊豆諸島の情報を伝える東京七島新聞にプロジェクトの様子が取り上げられました。

●コンクリートの保護効果に関する研究も

 一方、樹脂サイディング普及促進委員会では、大島のプロジェクトと併行して、この7月から塩ビサイディングをコンクリートの表面に貼ることによる保護効果の研究にも着手する予定です。琉球大学環境建設工学科の山田義智教授や日本大学建築工学科の湯浅昇准教授ら研究者の協力により、塩害の激しい沖縄県辺野喜の曝露場(コンクリートの耐久性を調べる試験施設)と北海道泊村の曝露場と千葉県などで各種データ収集を進めることになっています。
 同委員会では、「塩ビサイディングは潮風や火山ガス、紫外線の影響を受けにくいばかりでなく、長寿命で燃えにくく、建材として優れている。その塩ビサイディングが塩害のひどい島嶼部でも有効であることを実証するとともに、コンクリートの保護効果の検証も行っていく」と語っています。

★伊豆大島の地理と気象

 東京から120kmの太平洋上に浮かぶ伊豆諸島中最大の島。行政区域は東京都大島町。総面積91.06km2。周囲52km。総人口は8810人、世帯数は4869世帯(平成21年4月現在)。
 富士火山帯の海底噴火で出来た島で、中心部にそびえる三重式成層火山・三原山(764メートル)はハワイのキラウエア、イタリアのストロンボリと並ぶ世界3大流動性火山のひとつとして知られ、ほぼ50年間隔で噴火を繰り返す。近年では全島民が避難した1986年の大噴火が記憶に新しい。海洋の影響を強く受け、気温の差が小さく、黒潮の流れのため温暖多湿な海洋性気候だが、冬の季節風と春先の低気圧は風を、台風は多雨をもたらす。年間降水量は東京のほぼ2倍に達する。(東京都大島町公式サイトの情報を参照)