2007年9月 No.62
 

塩ビ最前線/塩ビ製アナログレコード

人々の生活を潤して60年。音楽文化の一端を担う、知られざる塩ビの役割

 世界初の塩ビ製アナログレコード(以下、塩ビレコード)は、1948年に米国コ ロンビア社が発売したLP盤、というのが定説。それから60年、今なお音楽ファ ンの心を魅了して止まない塩ビレコードの人気の秘密とは?。
 1959年の創立以来、高品質のレコード作りを追求してきた東洋化成(株)(神奈川 県横浜市鶴見区)を訪ね、音楽文化と塩ビの深くて長い関わりを取材しました。

●「塩ビ+酢ビ」が奏でる豊かな音色

カッティングマシンを使ってラッカー盤を製作する手塚和巳さん
  1982年のCD登場以降、様々なデジタル音源の普及で一時 は消滅の危機さえ取り沙汰された塩ビレコード。しかし、そ の豊かな音色は21世紀になっても健在でした。今年だけで も、過去の名盤、名唱が復刻されたり、人気ロックグループ の新譜がCDと同時にアナログ盤でも限定発売されたりと、 塩ビレコードをめぐる動きがしばしばマスコミの話題に。
 東洋化成取締役の茂手木義人レコード事業部長によれ ば、「レコード会社の企画によって年毎に変動はあるが、今 年はジャズ、クラシックに加えて歌謡曲、ポップスでも企画 が続いており、生産量は80万枚ぐらいになる見込み。年間2億枚以上も製造された最盛期には遠く及ばないが、基本 的には伸びる傾向にある」とのことです。
  この根強い人気を支えているのが、レコード素材としての 塩ビの優れた適性。
  「レコードの原料には塩ビと酢酸ビニル(酢ビ)を共重合した 塩ビ・酢ビコポリマーが使われる。もともと塩ビは加工しやす く低コストな素材だが、塩ビ・酢ビコポリマーを原料に使うこと でレコードの柔軟性と弾性が高まる。つまり、レコード針の反 発を吸収して、摩耗しにくい上に、音の再現性も安定した聴き やすいレコードができる。また、プレスするときにも、オリジナ ル音源をより正確に転写できるようになる」(茂手木事業部長)  同社では、スチレン 樹脂やABS樹脂でも試 験的にレコードを製作 したことがあるそうで すが、「音質が硬すぎ て塩ビにはとても適わ なかった」といいます。

●塩ビレコードは生き続ける

塩ビ原料とレーベル
   塩ビレコードの製造は、 カッティング(ラッカー盤 の製作)→メッキ処理(マ スター盤→マザー盤→スタ ンパー盤の製作)→プレ スという流れで進行しま す。このうちカッティング工程は、オリジナル音源をミクロン 単位の溝としてラッカー盤に刻み込む最も重要な部分で、 高度の熟練が要求される世界。東洋化成では、この道40年 というカッティングエンジニアの手塚和巳さんが、その職人 技を振るってラッカー盤作りを一手に担当しています。
  メッキ処理工程は、ラッカー盤を基にニッケルメッキで型 取りを繰り返し、プレス用のスタンパー盤を作るまでの作業 で、これが終わると、自動プレス機の上下にスタンパー盤 A・B面を取り付けて、いよいよレコード成型へ。スタンパー 盤の間に、約140℃に加熱した原料の固まり(200g)がレー ベルと一緒に自動的にセットされ、次々にプレスされていき ます。レコード1枚のプレスに要する時間は約30秒。

次々にプレスされるレコード
   「今やアジアでも当社が唯一のレコードメーカーになってし まったが、アナログ盤の深みのある響きは、その手作り感と 相まって若者からも支持されている。塩ビレコードはこれか らも生き続ける」と手塚さん。建材ばかりが塩ビにあらず。 人々の生活を潤す 音楽文化の一端を 担うのも、やはり 塩ビならではの役 割なのです。