2007年3月 No.60
 
米科学誌が可塑剤工業会の研究結果を掲載

可塑剤DEHPの精巣毒性について「種差の存在」を証明した最先端の知見

 塩ビ製品に使われる可塑剤DEHPの精巣毒性について、日・米・欧の可塑剤工業会が実施した研究結果((株)三菱化学安全科学研究所への委託研究)が、アメリカの科学誌『JOURNAL of TOXICOLOGY and ENVIRONMENTAL HEALTH』(2006年9月号、以下『JOURNAL』誌)に掲載されました。DEHPの精巣毒性には、げっ歯類と霊長類の間で種差があることを明らかにしたもので、著名な科学誌にこの研究結果が取り上げられたことは、DEHPの安全性に関する最先端の知見として世界的に認められたことを意味するものといえます。

●霊長類への精巣毒性は認められず
  塩ビシートやビニルホースなどの軟質塩ビ製品を作る上で欠かすことのできない可塑剤。一口に可塑剤といっても、耐久性を高めるもの、絶縁性を高めるものなど、用途に応じてさまざまな種類がありますが、DEHPはその中で最も広く利用されている代表的な汎用可塑剤のひとつです。
  DEHPの安全性については、IARC(国際ガン研究機関、WHOの下部機関)など内外の公的機関、あるいは可塑剤工業会をはじめとする関係団体により、発ガン性や環境ホルモン性、精巣毒性などの詳細な評価が行われており、現状ではヒトや生態系へのリスクはほぼ払拭された形になっています。精巣毒性については、ラットやマウスなどのげっ歯類に大量に投与すると精巣に影響がある(精巣の小型化)という報告(Poonら、1997年)が知られています。そのため、日・米・欧の可塑剤工業会が行ったマーモセットへの長期投与試験により、「霊長類には精巣の変化は認められないこと」が明らかになり、精巣への影響にはげっ歯類と霊長類の間に種差があることが明らかになりました。
  今回、『JOURNAL』誌に取り上げられた研究論文は、こうした精巣毒性の種差の存在を実証するため、可塑剤工業会が第三者研究機関である三菱化学安全科学研究所に委託して2000年9月〜2003年1月まで、およそ2年間にわたって実施した試験結果を報告したもので、げっ歯類と霊長類ではDEHPの体内動態(精巣への蓄積)に明確な種差があることを証明するとともに、そのことが精巣での影響に違いが見られる原因と推定するなど、メカニズムの解明にまで踏み込んだ内容となっています。
  なお、その後実施した生殖毒性に関する試験の結果(※)、体内動態・胎児移行性にも種差があるとの結果が得られています。その結果を2005年3月に米国ニューオリンズで行われたSOT(Society of Toxicology=毒性学会。世界で最も権威のある国際的な毒性学会)の第44回年次総会でポスター発表されて注目を集めました。これについても現在『JOURNAL』誌で審査中です。
  以上のように、DEHPの生殖毒性に種差があり、霊長類への実質的なリスクは認められないことが明らかになったものの、可塑剤工業会では、「可塑剤のユーザーや消費者により安心してDEHPを利用してもらうため、さらなる知見の集積に努める」として、現在、げっ歯類の生殖毒性に影響が起きるメカニズムの解明に向け取り組みを進めています。

※試験1= 幼若期のラットとマーモセットにDEHPを投与し血漿中濃度や精巣を含む体内の分布、排泄の挙動を調査
 試験2= 妊娠しているラットとマーモセットにDEHPを投与し、精巣を含む胎児の組織への移行の程度を調査