2005年12月 No.55
 
JPEC 講演会「『環境時代』を考える」

  東大・渡辺正教授が環境の常識に挑む。
  大切なのは「科学的で冷静な視点」
 

    当協議会主催の講演会が11月28日、東京都港区の虎ノ門パストラルで開催され、東京大学生産技術研究所の渡辺正教授が、「『環境時代』を考える」と題して講演を行いました。  

■ 政治と経済の力学で動く環境問題

 『ダイオキシン―神話の終焉』などの著作を通じて、科学常識の危うさ、定説の不確かさを警告し続けてきた渡辺教授。
 今回の講演でもその主張は一貫しており、酸性・アルカリ性といった食品の健康神話のいかがわしさを皮切りに、地球温暖化やダイオキシン、環境ホルモンなど様々な環境問題の定説に疑義を呈したお話は、「データに基づいた科学的で冷静な判断」こそ、「環境時代」の中で最も重要な視点であることを強く印象づけるものとなりました。
 このうち、温暖化問題について教授は、NASA (米航空宇宙局)の観測記録など最新のデータを示しながら、「確かに場所によって地球の温度が上がっていることは事実だが、その場所は世界の大都市圏に集中している。他の地域の気温はむしろ安定しており、逆に下がってる場所さえある」と指摘。「地球温暖化は都市化(ヒートアイランド)と太陽活動の変化の影響」であり、仮に(CO
2の影響が)事実としても「対処する時間はまだ十分に残されている」との考えを示しました。
 一方、ダイオキシン問題については、「万物は毒である。但し、量の問題」というルネサンス期のスイス人医師パラケルススの言葉を紹介した上で、「我々が摂取するダイオキシンの95%は日ごろの食品から入ってくるが、その急性毒性は100万年分の食物をイッキ食いしなければ致死量に達しない程度。発がん性もコーヒーの150分の1に過ぎない」と説明。また、環境ホルモンについても、「大豆など天然の食物から摂取する女性ホルモンもどき(植物エストロゲン)は、ビスフェノールA に比べて5000倍のパワーを持つ。ビスフェノールA の危険性を騒ぐ必要が本当にあったのか」と述べて、「予防原則も大事かもしれないが、どれだけ資金を投じて何が得られるのかを冷静に評価しないと、むしろ貴重な資源、資金の浪費につながる」と指摘しました。
 最後に教授は、「森林枯渇の原因が自動車の排気ガスであることが分かってきて、かつてあれほど騒がれた酸性雨の問題を今ではマスコミもまったく報じない」として、「国際政治と経済の力学」で動く「歪んだ環境の時代」に警鐘を鳴らしました。

  

  ■プロフィール わたなべ ただし
1948年鳥取県生まれ。1970年東京大学工学部工業化学科卒業。1992年から東京大学生産技術研究所の教授。研究テーマは光合成の分子機構、光生体機能など。光合成の研究をきっかけに地球温暖化問題、ダイオキシン問題に関わる。