2004年9月 No.50
 

 “塩ビのリサイクルに期待する”

  富士常葉大学助教授
  循元気なごみ仲間の会代表  松田 美夜子

  

  市民プラスチックの中でも塩ビ製品に人々の関心が集まったのは、1998年2月のマスコミによる「所沢ダイオキシン野菜報道」の事件であった。この報道は、「清掃工場から多量のダイオキシンが出るのは塩ビを焼却するからだ。」と受け止められた。一般の人々には、原子力施設から放射能が漏れたくらいの衝撃であった。塩ビ製品の排除運動が起きたのもこのときである。
 あれから6年。最近は塩ビに対する信頼が再び戻ってきたと思うのは、私一人だけだろうか。ほとんどの人が、あのときの騒ぎは何だったのかと思えるようになっている。
 思い出せば、所沢ダイオキシン報道事件は、日本における企業のリスクコミュニケーションの出発点であった。その点で、塩ビ産業はリスクコミュニケーションの先陣を切ったのである。
 今では、ダイオキシンの発生は塩ビだけが発生源ではないことが理解され、塩ビを低温で燃やすとダイオキシンが発生しやすいので、その取り扱いには特別の配慮が必要であると人々は冷静に受け止めている。また、塩ビ業界はそのことを正確に伝え、自らリサイクルの技術を他のプラスチック産業以上にシステム作りをしてきた。この点が評価されたと思っている。
 私たちは危険(リスク)に対する考え方を、塩ビ製品を通して少しずつ学び始めた。そして、清掃工場も、原子力施設も、生活するうえで欠かせない施設であり、危険は、十分な管理体制があれば、技術開発により未然に防止できると判断できるようになった。
 産業構造審議会の委員やエコタウンの評価委員をしている関係で、筆者は全国の塩ビのリサイクル施設を訪ねる機会が多い。そのたびに脱帽するのは、今まで嫌われ者であった塩ビをリサイクルの優等生にしようと、懸命に努力されている現場の人々がいることである。
 初めて塩ビリサイクルの現場を訪れたのは、使用済み塩ビ管のリサイクル施設であった。使用済み塩ビ管を粉砕して溶かすだけで新しい塩ビ管に戻ることを知って、本当に驚いた。
 使用済み塩ビ管を新しい塩ビ管に再生すれば、埋立地の延命にもなり、資源の保護にもつながる。再生塩ビ管が公共工事に使われていくには、市町村自治体が使いやすいように環境JISマークを付けたり、公共工事での優先的な使用制度が必要だと気付かされた。
 このことがきっかけで、再生塩ビ管は国土交通省の公共工事におけるグリーン購入法の特定調達品目に、2003年2月に認定された。塩ビのリサイクル施設を訪れる度に、塩ビリサイクルの新しい技術に出会い、毎回目を見張ってしまう。なかでも川崎市エコタウン内のプラスチックのケミカルリサイクル施設では、今までプラスチックのリサイクルを困難にしていた塩ビ類の混入に対して、塩素を抜き出して工業塩に戻す技術開発により、他のプラスチック類と一緒にリサイクルするシステムが出来上がっていた。次々に新しい技術の開発のすごさに圧倒される。
 農業用の塩ビのリサイクルも、電線を被覆している塩ビのリサイクルも、塩ビの壁紙のリサイクルも、着実に成果を上げている。素晴らしいと思う。
 ところで、最近容器包装リサイクル法の改正の審議が始まったことを契機に「清掃工場の設備が向上したので、塩ビを燃しても大丈夫」などという意見が、マスコミをにぎわし始めている。「リサイクルするより焼却するほうが、コストが安い」などと、とんでもない記事が大新聞の一面を飾った。
 産業界が地道に努力してきたマテリアルリサイクルの技術と、そこまでの資本投資を無にするようなことを、産業界は望むはずはない。市民も、「清掃工場で税金を使ってプラスチックを焼却するなど、とんでもない」と思うだろう。プラスチックを焼却して得をするのは誰か。清掃工場を建設する企業なのか、リサイクルの責任を逃れる企業なのか。よく見極めていきたい。
 市民活動というと、企業や自治体の人々は、公害問題全盛だった1970年代の記憶から、激しい追及スタイルを思い出しがちであるが、今の市民活動を行っている人々は、21世紀を「環境の世紀」にしていくため、企業や自治体と共に知恵を出し合いたいと活動している人が多い。
 今回50号を迎える『PVCニュース』は、有識者インタビューや塩ビ産業の新しい動きを伝え続けて13年になる。これからも確かな情報を人々に届け、塩ビ応援団を育てていただきたい。誌面のさらなる充実を楽しみにしている。