2003年9月 No.46
 
JFEスチール(株)の「サーモバスプロセス」

使用済み自動車のシュレッダーダストを効率的に再資源化。塩ビリサイクルにも福音

 使用済み自動車から発生するシュレッダーダストを、製鉄所の副産物であるコールタール類を利用して金属類とプラスチックに分離、再資源化する「サーモバスプロセス」。
塩ビも分別不要で一緒に処理できるJFEスチール(株)(本社=東京都千代田区内幸町)の新技術に注目。

 

●自動車リサイクルを促す要因

 
 我が国の使用済み自動車の発生量は年間およそ500万台。うち、輸出分を除くおよそ400万台が国内で処理されています。重量で80%を占める部品や鉄・非鉄金属については既にリサイクル技術が確立していますが、プラスチック・ゴム・繊維など残りの20%はシュレッダーダストとしてほとんど埋立処分されているのが現状。その量は年間およそ80万トンに達します。
 しかも、燃費向上のための軽量化を背景としたプラスチック使用比率の増加、管理型埋立用地の逼迫など、使用済み自動車のリサイクル率向上を促す要因は日に日に大きさを増しており、国も「2015年までにリサイクル率95%以上」という目標値を定めて、2004年中に自動車リサイクル法を施行する方針を示しています。
 

●コールタールの熱媒で高速処理

 
 こうした社会的要請に応えて開発されたのが、今回ご紹介するJFEスチールの「サーモバスプロセス」。使用済み自動車のシュレッダーダストを、製鉄所の副産物であるコールタール類を利用した熱媒浴(サーモバス=Thermo-bath)法により金属類とプラスチックに分離、再資源化する新技術で、
・低温(300℃)での高速分離処理が可能
・塩ビも他のプラスチックと同時に処理でき、脱塩素も短時間
・プラスチックと有価金属の回収で高いリサイクル率を実現
・シンプルな設備とプロセス

 などの多彩な特徴を備えています。分離されたプラスチック類は10mm以下に粉砕した後、既存の高炉原料化プロセスとの組み合わせでコークスに代わる高炉還元剤として再利用されるほか、金属類も鉄や非鉄金属の原料としてリサイクルされます。
 JFEスチールでは、「現時点ではこのプロセスがリサイクル率95%以上という目標値を達成できる唯一の技術」としていますが、ドイツ、フランスなど海外の鉄鋼メーカーからの注目も高く、今年6月にドイツで開催された世界製鉄会議でもプロセスの概要が報告されて、参加者に強いインパクトを与えました。
 

●短時間で高い脱塩素率

 
 「サーモバスプロセス」は、JFEスチールの前身であるNKKにより1997年に発案され、基礎試験を経て、99年から川崎市のJFEスチール研究所において処理能力1,200トン/年の設備を用いて実証試験が進められてきました(NEDO〈新エネルギー・産業技術総合開発機構〉の助成)。
 試験は既に終了しており、「回収したプラスチックは、燃焼ガス化特性、吹き込み性能、気流輸送性などいずれも通常の操業と全く変わりなく、コークスの代替として高炉還元剤に利用できること」、また「脱塩素性能も短時間で高い脱塩素率を達成できること」などが確認されました(図1参照)。
 実証試験に用いられた設備の概要は図2に示したとおり。溶解分離槽と熱媒循環槽に充填されたコールタールベースの熱媒はポンプで循環しており、300℃弱の温度に維持されています。熱媒体が熱伝導率の高い液体であるため、投入されたシュレッダーダストは溶解分離槽の中で急速に昇温し、熱媒より比重の小さいプラスチック類と比重の大きい金属類とに分離します。
 その際、塩ビが分解して脱塩素されるとともに、ポリエチレン、ポリスチレンなど大部分のプラスチック類は軟化した状態で熱媒油表面に浮上。低温処理のため、プラスチックの過分解が抑制され、高炉で効率的に利用できるプラスチックが回収されます。金属類は溶解分離槽の下部から回収されます。また、排ガスは中和塔で苛性ソーダで中和されます。

 

●家電リサイクルへの応用も視野に

 
 自動車のシュレッダーダストの組成は、プラスチック・ゴム・繊維などがおよそ7割、鉄・銅・アルミなどの金属が2割、残りがガラスや砂などで、塩ビは主にワイヤーハーネスの被覆、ダッシュボード表皮などに使用されています。ダスト中の塩素分は平均3%程度ですが、JFEスチール研究所製銑・環境プロセス研究部の岡田敏彦副部長の説明では、「サーモバスプロセスは塩素分5〜6%程度まで対応可能」とのことです。
 「実証試験が終了したことを受けて、現在は自動車リサイクル法の動向を見極めつつ商業運転を含めた次のステップの検討を行っている。また、家電リサイクルへの応用も視野に入れており、NEDOの助成による家電シュレッダーダスト処理の実証試験も行った」
 塩ビのリサイクルにとっても大きな福音となる「サーモバスプロセス」の開発。今後の展開に期待がかかります。