2002年12月 No.43
 
 

 (株) 菊池化成の塩ビリサイクル事業
  自動車内装材から医療用輸液バッグまで、独自技術を駆使して多彩なリサイクル

 

   自動車や建材、医療機器などの製造工程で排出される工場端材から、塩ビやポリエチレン、ポリプロピレンなどの各種プラスチック部材を分離して、コンパウンドやペレットに再生している(株)菊池化成(埼玉県八潮市大瀬686−1/TEL. 0489−96−7155)。その多彩な取り組みの中から、塩ビのリサイクルに焦点を絞って事業の概要を見てみました。  

全国でも数少ない事例

 
 菊池化成の設立は昭和50年。産業廃棄物の収集運搬業の認可を取得したのが翌51年のことで、「リサイクル系でこの認可を取った日本第1号だった」といいます。
 「廃棄物処理法に基づいて中間処理業者も許可を取るよう国の行政指導があった時に、たまたま対応したのが当社だけだったため、第1号に限って収集運搬の免許一本で中間処理までできる特例が認められた。リサイクル業者としてはたいへん珍しいケースだ」(菊池泉社長)。
 同社では、処理対象品をメーカーの工場端材に限定しており、基本的に使用済み製品の市中回収は行わない方針ですが、冒頭で触れたとおり、処理する製品や樹脂の種類が多岐にわたっている点に大きな特徴があり、取引メーカーの数も30社近くに達します。普通は業種や樹脂別に棲み分けがはっきりしているリサイクル業界の中で、菊池化成のような取り組みは全国でもあまり例がありません。
 また、各種プラスチックの再生処理のほか、フィラーと呼ばれる増量材(炭酸カルシウム、シリカなど)や木粉、紙粉、PET繊維などを樹脂に練り込んで再生品の物性を高める「混練り技術」でも、同社は優れた実績を有しています。

 

■ 月およそ200トンの塩ビを再生

 
 30年に近い社歴を有する中で、創業当初から一貫して菊池化成の事業の中心にあったのは塩ビのリサイクルでした。現在でも1ヶ月の処理量およそ400トンのうち約半分が塩ビで、その5割以上を占める自動車の内装材(ドアの裏張りやマット、シート、インパネ)を中心に、壁紙、床材などの建材系、医療用の輸液バッグ、本やガラスびんなどのラベルに使われるシュリンクフィルム、及び粉砕品のナゲット電線被覆など、実にさまざまな塩ビ製品のリサイクルが行なわれています。
 こうした多様な製品の処理を4台の押し出し機で賄うため、製品によっては30分毎、あるいは10分毎にフィルター交換を行なうなど、機材のメンテナンスにも細心の注意が払われています。
 以下に基本的な処理プロセスを示します。

 再生された塩ビコンパウンドは、同じ用途に戻される自動車の内装材やシュリンクフィルムを除き、大半は床材の原料としてリサイクルされます。また、輸液バッグは、家庭用のホースなどにも利用されています。

■ さまざまな独自技術

 
 菊池化成では、処理する製品によってさまざまな独自技術を駆使しています。特に壁紙やレザーの処理に応用されている「混練り技術」は、紙や繊維を分離しないでそのまま樹脂の中に練り込んでしまう独特のもので、繊維を一本ずつばらばらにして均等に練りこむ平滑化技術の開発により、繊維の固まりが残らない均質化した滑らかなシートの製造を可能にしています。
 輸液バッグは医療メーカーの工場で製品の抜き取りテストに使われたものや成型不良品が、主に静岡県の富士宮工場で処理されています。例外的に表面に紙ラベルが貼られた製品は本社工場に搬送され、特殊な機械でラベルをきれいに剥がし取った後、コンパウンドに再生されます。
 シュリンクフィルムのリサイクルにも独自のノウハウが生かされています。
 「シュリンクフィルムを再度シュリンクフィルムメーカーに戻してリサイクルしているのは、日本では当社がおそらく唯一のケース。微細な異物が混入してピンホール程度の穴が開いただけでもパンクしてしぼんでしまうため技術的に極めて難しい」(菊池東実〈あつみ〉専務)。
 一方、ナゲット電線は量的にはまだ少量にとどまっているものの、今後拡大が見込まれる分野です。これは塩ビ工業・環境協会(VEC)が取り組む塩ビ電線被覆材リサイクルのモデル事業に参加する形で取り組んでいるもので、千葉県の電線リサイクル業者・ウスイ金属で前処理(粉砕分離)した塩ビ被覆を菊池化成が試験的にペレット加工しています。同社では、今後、試験段階を経て量産体制に入るのに際して、押し出し機一台を電線被覆材専用に充当する計画とのことです。

   

■ 塩ビの有用性を確信(菊池社長)

 
 菊池化成ではこのほか、自動車メーカー3社、医療メーカー1社にプラントを納入して技術者だけを派遣するという一種の出張処理も行なっています。処理量は月平均25トン程度ですが、「メーカーの工場から圧縮梱包して本社に運んでくる手間ひまに比べると、輸送費をカットできるだけでなくペレット工程も省けてじかにコンパウンドにできるので、メーカーにとってはコストダウンメリットが大きい。実際、処理コストは従来の半分以下に圧縮された」(菊池社長)と言います。
 「現在、手間とお金をかければリサイクルできないものはないと言っても過言ではない。それをいかに低コスト・高品質で競争力のある商品にしていくかがリサイクル技術のポイントだが、ポリマーの中で塩ビは最もリサイクルしやすい優れた素材だと思う。石油の消費も少なく環境面でもメリットがある。自動車内装に使われる塩ビは減少傾向にあり当社の取扱量も来年は半減する見通しだが、塩ビの良さが冷静に理解されれば、その有用性は非常に大きいと私は確信している」
 昨年暮れには火災で本社工場機能の半分を消失するなどさまざまな困難に直面しながらも、菊池化成は塩ビリサイクルへ向けて意欲的な取り組みを続けています。