2002年9月 No.42
 

 東北で本格的農ビリサイクル施設が稼働

  「地域内資源循環社会」形成の起爆剤へ、宮城県・日の丸合成樹脂工業(株)の挑戦

   宮城県のプラスチック加工業者・日の丸合成樹脂工業(株)(朝倉力社長)のプラスチック・リサイクルセンター(宮城県黒川郡大郷町)がこの2月から操業を開始しました。東北地方における農業用プラスチック(農ビ・農ポリ)の本格的リサイクル拠点として、「地域内資源循環社会形成」の起爆剤となる可能性を秘めた同社の挑戦に、関係者から大きな期待が寄せられています。  

処理能力6,600トンの大型施設

 東北6県全体の使用済み農業用プラスチックの排出量は推計で年間2万トン。しかし、その多くは埋め立て処分され、リサイクルされるのはまだ少量にとどまっています。処理施設の面でも、先に本誌でレポートした太洋興業(株)の移動式リサイクル・システムが農ビ専用の設備として注目を集めているものの(No.36参照)、常設型の本格的処理施設はこれまでひとつもありませんでした。
 こうした中で操業を開始した日の丸合成樹脂工業のプラスチック・リサイクルセンターは、フル稼働時の処理能力が年間6,600トン。東北6県から排出される使用済み農業用プラスチックのおよそ3分の1を処理できる規模で、この数字からも農業関係者や周辺自治体の期待の大きさが分かります。
 同社は昭和40年の創業(法人化は45年)以来、各種プラスチック原料の着色加工から再生原料の製造まで、一貫してプラスチックに関わってきた「合成樹脂のトータル企業」です。「メーカーの工場廃材をペレット化して再びメーカーに戻すといったリサイクル業務を中心に行ってきましたが、農業用プラスチックへの取組みが本格化したのは平成12年度から」。翌年、町営の工業団地内にリサイクルセンターの建設計画を発表して以降、11月の着工、今年2月の完工式と、計画が進捗するつど、その動きは地元のマスコミでも大きく取り上げられています。

 

初年度の処理目標は3,000トン

 日の丸合成樹脂工業の計画では、初年度の目標処理量は、年間最大処理量の半分に当たる約3,000トン。既にセンターの操業開始以降、3月〜7月末までの5ヶ月間で農ビ・農ポリを含めおよそ500トンの使用済み農業用プラスチックを処理していますが、現在取引のある東北各県のほか栃木県など関東地区の自治体とも商談が進んでおり、今後とも処理量は順調な増加が見込まれます。
 宮城県内だけで見ると、県の農業用廃プラスチック適正処理推進協議会の下に組織されている17の地区協議会のうち、日の丸合成樹脂工業と契約を交わしているのは現在10。未契約の協議会でも「日の丸と取り組みたい」という意向を示すところが増えてきています。
 回収システムは、地区協議会の回収計画に基づいて農家が集荷場(JAの施設)に持ち込む廃材を、運送業者に委託してリサイクルセンターに搬入するという流れで、回収品の中にはハウスシートのほか、肥料袋、畑作用のマルチ、畦シートなど様々な農業資材が混入していますが、同社では「仕分けは各協議会の指導に委ねる」としており、基本的にはすべてを受け入れて処理していく方針です。
 なお、回収品のうち農ビの割合は約3割。これは気候の関係や作付けされる作物の特性から北にいくほど農ポリが多いという事情を反映したものですが、農ビの需要が多い宮城県以南からの入荷が増えるのに伴って農ビの割合も次第に高まってくるものと予測されます。
 

 

再生原料以外の用途開発にも意欲

 処理フローは次のとおり。
 回収品に付着した泥(平均で重量の30%程度)を、3回におよぶ洗浄の徹底で完全に洗い落とし、再生原料の品質を確保しているのが大きな特徴。再生原料は粉砕したままのフラフ状またはペレット状に固形化され、現在は大半が床材の原料としてメーカーに販売されているほか、一部は農業の散水用ホースなどにも再利用されています。
 日の丸合成樹脂工業では原料販売以外の用途開発にも極めて意欲的で、農ポリについては既に再生肥料袋や再生マルチなどに商品化されています。農ビの場合は「高品質なので原料のまま取引したい」というユーザーの要望が強いこともあって、まだ具体的な開発は進んでいませんが、将来は「地域で利用できる生産資材、農業資材」の開発に取り組みたい考えで、「地域の資源を地域に還元できるよう一日も早く提案したい」と同社の佐藤宮津夫循環型社会推進事業部長は話しています(別掲記事)。
 また、今後のリサイクルを進める上では処理コストに対する農家の理解も大きなポイントになります。現在、同社が設定している処理費は工場持ち込みでキロ30円。地域によって行政やJAの補助などがあるものの、コストの安さから埋め立て処分に出す農家もまだ少なくありません。
 日の丸合成樹脂工業の新たな挑戦は、これから大きな山場を迎えようとしています。

 

■循環型社会推進事業部・佐藤宮津夫部長の話

 平成12年、農業用プラスチックの処理に関して「近隣に適正処理してくれる企業がないために、県内どの地区でも対応に苦慮している」というある研究者のコメントが地元紙で紹介された。当社が農業用プラスチックのリサイクルに挑戦する決心をしたのは、この報道を見て「昭和40年からプラスチック一筋でやってきた企業がここにある」というプライドを刺激されたためだ。当社の取り組みは、再生原料を地域で使える生産資材、農業資材として再び地域に還流させたいということを根本的な狙いとしている。また、一軒でも多くの農家に「プラスチックはリサイクルできる」ということを実感してもらうことで、無闇な排出を食い止めることができるのではないかと考える。まだ力不足だが、当社のモットーである「真と愛と勇気」の心をもって、「地域内資源循環社会」の形成に一歩でも踏み込んでいきたい。

 

連絡先:宮城県黒川郡大郷町川内字埣山1−1
TEL. 022−359−9151