2002年3月 No.40
 
誕生から60年。国立科学博物館が塩ビの技術史的資料など調査。
歴史的遺品を保存

 日本で塩ビの技術開発が始まったのは昭和16年のことといわれます。それからおよそ60年。日本の石油化学工業の中心的産業に成長した塩ビ産業の発展の歴史を、博物誌の中で捉え直そうという国立科学博物館の調査事業が、平成13年度で終了します。調査を担当した国立科学博物館産業技術史資料調査主任調査員の宮本眞樹氏にお話を聞きました。

 

■ 石油化学工業の代表として塩ビを調査

 

  「産業技術史資料の評価・保存・公開に関する調査研究」というのが、その調査のタイトル。国立科学博物館が平成9年度に組織した産業技術史調査会によって、5ヵ年計画で進められてきたもので、塩ビのほかVTR、コンピュータを対象に、技術史的資料(製造設備や製品)の所在調査と技術発展の系統化調査が実施されました。
 「国立科学博物館がこの調査に取り組んだのは、明治以降、日本が産業立国を国是として発展してきた証となる物品が数多く失われていることに危機感を覚えたため。また、数ある化学製品の中で特に塩ビが選ばれた理由は、第1には、現在の化学産業の中心である石油化学工業を代表するものの一つであること、2番目には、石油化学工業の大部分が戦後海外の技術導入から生まれているのに対し、塩ビは戦前に石油化学以前の国産の技術からスタートしているという歴史的な意味合いから。昭和16年に日本窒素肥料が独自の技術で生産を開始した時から、日本の塩ビの歴史は始まったのです」
 塩ビについての具体的な調査としては、平成12年度から技術の発展を示す物品の所在調査と技術の発展を系統化する調査が2年がかりで実施されており、平成12年度は塩ビ樹脂の製造技術、平成13年度は用途・成形加工技術を中心とした調査が行われました。

 

■ 歴史的物品およそ30点を収蔵見込み

 

  「調査を進める上で困ったのは、文献は数多く残っているのに、保存されている物品の数は非常に少ないということ。調査のスタートが10年遅かったという思いを強くしたが、それでも、昭和27年に製造された日本ゼオンの塩ビ樹脂第1号を収蔵できたことなど、収穫もあった。この第1号製品は同社の関係者がたまたま個人的に保存していたもので、会社ではなく個人の手で守られたという点が、塩ビの技術開発をめぐる当時の状況を物語っていて印象的だった」
 宮本調査員の話では、これまでに26点が登録候補のリストに上っており、最終の平成13年度いっぱいでは、さらに30点ほどの歴史的な物品をリストアップできる見込みですが、「博物館に収蔵できない大型設備の保存をどうするか」が今後の課題となっており、「博物館に収蔵できないものは塩ビ業界として保存してもらうことも検討中だ」と言います。
 いずれにしても、塩ビの技術開発の歴史が日本の博物誌の中で正当に位置づけられた今回の調査の意義はきわめて大きいと言わねばなりません。
 なお、平成12年度に行われた塩ビ樹脂の製造技術に関する調査結果は、『国立科学博物館/技術の系統化調査報告第1集』として刊行中。平成13年度の調査結果は、第2集として近々発刊の予定。