2001年12月 No.39
 
 

 高知ビニール(株)の農ビリサイクル事業
   創業25年、農ビリサイクルのパイオニア。新製品開発で新たな事業展開めざす

 

    農業用ビニルリサイクルのパイオニアとして評価の高い、高知ビニール(株)(高知県吾川郡春野町森山2870/TEL.088―894―4711)。その近況を現地に取材しました。  

 

県廃プラ処理公社が母胎

 

  キュウリ、ナス、スイカ、花卉類などの主産地である高知県は、日本で最初に促成栽培が始まった地域で、農業用ビニルのリサイクルについても最も早い時期から取り組みに着手しています。
 今回ご紹介する高知ビニールは昭和51年の設立ですが、その母胎となった高知県農業用廃プラスチック処理公社の組織化は昭和47年、さらにそれ以前にも、昭和45年前後には既に地域のリサイクル協議会を中心に民間レベルで小規模な処理が行われていたといいます。
 高知ビニール設立までの経緯を、同社の伊藤巌会長に説明していただきました。
 「初めに動いていた民間のリサイクルプラントは赤字を抱えて創業と消滅の繰り返しだった。その頃、台風シーズンになると放置されていた使用済み農ビが河川や海に流出して漁業に被害を与える事件が相次ぎ、この問題が発端となって、行政(県と市町村)、農業団体、農業用フィルム商業会が参加して公社が設立された。実際に稼働したのは昭和49年で、日立造船(株)のリサイクル・プラントを導入し、原料をペレット化して自動車の部材に供給する公社直営の処理体制がスタートしたが、いざ始めてみると石油ショックの影響や生産量の限界などが重なり予想外の赤字続きとなってしまった。そこで日立造船と対策を協議した結果、同社を中心に機械メーカー、商社などの共同出資で完全民営の新会社(高知ビニール)を設立して受託処理を行うことが決まった」

 

■ 回収品は全量リサイクル

 

  高知ビニールの現在の主力はペレット化する前段階のパウダー(グラッシュ)製品で、シートメーカーなどで床材の原料などに利用されます。また、一部ペレットの製造も続けられており、これは従前どおり自動車メーカーに販売され車の部材などに利用されています。
 プラントの処理能力は最大で年間6,000トン。創業時に量産体制を整備するため公社時代の設備を改良したもので、平成12年度は使用済み農ビから3,480トンの再生原料が製造されています。
 同社では、回収された使用済み農ビは「いいとこ取りせずに全量リサイクルする」(伊藤会長)方針を取っていますが、農家に対する前処理の指導が行き渡って回収品の品質が向上したこともあって、問題なく全量リサイクルが行われているようです。処理工程はフロー図に示したとおりです。
 なお、選別工程については農ポリや金属などの選別精度を高めるため静電分離機が試験的に導入されており、製品をグレードアップしてバージン原料に近い品質のコンパウンドを作ることで、付加価値の高い新たな商品開発につながるものと期待されています。

■ 回収システムの要、協議会組織

 
  高知県の農ビ回収システムは公社を中心とした協議会組織によって運営されています。
 公社の中に設けられた高知県農業用廃プラスチック処理対策推進協議会が各市町村の地区協議会を束ねるシステムで、県で決められた集荷計画が各地区の協議会を通じて農家に伝達され、計画に従って農協の出荷場などに集められた使用済み農ビを、公社と契約委託している運送業者2社が高知ビニールに搬入する、という流れで作業が進められます。
 地区協議会を設置しているのは40市町村で、これでほぼ県内全域がカバーされます。使用済み農ビの年間排出量は明らかではありませんが、高知ビニールでは「県内で出るものはほぼ100%回収できているはず」と見ています。
 回収費用は原則として農家の負担で、農家はkg当たり20円を公社に納入し、うち13円が高知ビニールの処理費に充てられます(残りは回収運賃など)。高知ビニールが処理費を取るようになったのは平成7年からのことで(当時はkg当たり3円)、石元速雄社長の話では、「創業からしばらくの間は公社から原料を買い取る形になっていた」とのことですが、後述するように回収量と製品価格の低下などから処理費を取らざるを得なくなったといいます。
 また、農家の負担については、地域の協議会の運営方針によって一部を農協や行政が補助しているケースも見られますが、最近は農家の意識の高まりもあって全額農家が負担するケースが多くなっているとのことです。

   

■ 新製品「グリーンチップ」で販売力強化

 
  長い間の活動が評価されて平成11年にはRクリーンジャパンセンターのリサイクル表彰も受けている高知ビニールですが、農ビから他の製品への転換が進んだことによる回収量の減少、バージン価格の値下がりによる再生原料の価格低下と販売不振といった状況を受けて、近年は新たな取り組みに迫られる場面も出てきているようです。
 「ピーク時には5,500トンを上回った回収量も、ここ数年は4,000トン前後で推移しており、これが経営に影響を与えている。施設を効率的に稼働するためには最低限5,000トン処理が当社の目標であり、この不足分を補うために最近は使用済み農ビの処理に困っている他の県からも受け入れるようにしている。今年は四国各県のほか東海地方などからも集荷する予定で、こうした事業展開により可能な限りフル稼働に近づけたい」(石元社長)
 一方、再生原料の販売に関しては自ら新製品を開発する取り組みも進められています。特に使用済み農ビのペレットにゴムをブレンドした「グリーンチップ」は、歩行感に優れた舗装材として大阪の私鉄のホームなどに利用されているほか、この技術を応用して試作されたブロック板も鉄道の踏切板などへの利用が有望視されています。
 こうした取り組みを軌道に乗せることで、高知ビニールの農ビリサイクル事業はまた新たな展開を見せることになりそうです。