2001年3月 No.36
 
21世紀の「ごみダイエット」論

 生活者の視点で語る「ごみ問題」〜「環境学習」望まれる市民と企業の共同歩調

 

 ジャーナリスト・環境カウンセラー 崎田 裕子

●縦軸と横軸のバランス

 
  私が環境問題と関わるようになったのは、雑誌社を辞めフリージャーナリストになってしばらく後、90年代はじめのことでした。その頃、編集者時代にお世話になった大宅映子さんの事務所から地球環境と天然エネルギーに関する雑誌の企画責任者をしてほしいという依頼を受け、3年間ほど担当しましたが、当時の私にとってはこの経験が大変な勉強になりましたし、大きな転機にもなりました。
 当時は、環境に対する社会の意識も高まってきた時期で、法律や社会の仕組みにも変化が兆しはじめていました。しかし、生活者の視点で見て分かったことは、いかに法律や仕組みができても、市民一人一人が環境に対する意識を変え、生活の中で実践しない限り、状況は実際には変わらないということでした。
 つまり、社会の仕組みと個人的な実践の両方が同じベクトルをもって進んでいくこと、法律、行政を縦軸とすれば、それを支える市民、企業といった横軸が、信頼関係を結んで一歩ずつ歩んでいくこと、そうした条件が整わない限り、環境は変化しません。それで私は、縦横両方の軸を持ってバランスを保ちつつ、仕事をしたいと思ったのです。
 いま私が二つの肩書きを使っているのも、社会に対して発言するジャーナリストとしての立場と、地域や市民に対して環境学習のような動きを広めていく環境カウンセラーの立場という両方の活動を自分の中に常に持っていたいと考えるためです。環境ジャーナリストのほうが分かりやすいじゃないかと言ってくれる人もいますが、私は敢えて二つの肩書を使っているわけです。
 

●計量から始まる「ごみダイエット」

 
  この5年ほど、私は自分の足元からごみとの付き合い方を考えながら環境を論じるというスタンスで仕事をしています。環境問題の中で、特にごみ問題にマトを絞ったのは極めて個人的な発見からです。それは、調理し終えた後に出る大量のごみの山でした。自分の生活を振りかえってみて、とにかくその量の多いことにビックリしてしまったわけです。
 その時「これはまず自分自身をきちんとしないといけない」と痛感して、具体的にごみの量を計ってみることから取り組みを始めたのですが、やがて、そのごみを素材別に分けて、それぞれの素材を身近にあるリサイクル拠点に持っていけば、実際に捨てなければならないごみは意外に少ないということに気づきました。
 さらに次の段階には、どうせ分別したりリサイクルに回すなら、その前に買い物の量を減らすことを考えるようになり、買いすぎない工夫をするとか、詰め替え容器を選ぶとか、過剰包装を止めようとか、生活者の実感として発生抑制の方向に自然に進んでいきました。買い物の工夫を通じてリデュース、リユース、リサイクルという3Rの原則が実感でき、自分のごみをダイエットすることでごみゼロ社会への道筋がはっきり分かってきたわけです。
 こうした経験から、私の頭の中に「ごみダイエット」という発想が浮かび、ごみの計量から実際のダイエットに至るまでの具体的なフローマップが描けるようになりました。
 

●「元気なごみ仲間の会」

 

  自分の足元からごみ問題を考えるという姿勢は、市民にとってだけでなく企業の皆さんにとっても大切なことだと思います。まず自分の家庭の「ごみダイエット」を考えることが、結局は自社製品の軽量化や包装の簡便化などにもつながっていくはずだからです。市民と企業関係者がそれぞれの立場で同じ精神を共有できれば、可能なことはいくらでもあります。
 そういう意味では、市民と企業の人たちが一緒の方向を向いて活動していくということが、これからとても大切になるでしょう。これまで市民も企業も環境問題の改善に向けて双方がかなりの努力をしてきているのに、それがなかなか全体としてリンクしないのは、市民と企業が同じ方向を向いて常に情報を交換しながらやっていける場があまりに少ないことに原因があると思います。
 もっとも、最近はそうした交流の試みも少しずつ出てきています。そのひとつが「元気なごみ仲間の会」です。この会は、容器包装リサイクル法が制定された頃、ごみ問題の解決に向けて活動する全国の方々のゆるやかなネットワークとしてスタートしたものですが、会員には消費者だけでなく行政や企業の関係者もたくさん参加しています。
 私は代表の松田美夜子さんに誘われて以来、市民活動としてきちんとした視点を持っている会だと思ってお手伝いし、現在事務局長をしています。この会のように、いろいろな人が率直に交流できる場がこれからの社会を変えていく上でどうしても必要になると思います。

 

●チェック・アンド・トライ

 

  ところで、容器包装リサイクル法については現在課題整理の作業が進んでいます。私も検討会の委員として課題整理作業に参加しているひとりですが、私はこの法律によって市民、企業、行政の役割分担が明確になったことは、やはり画期的なことだったと思います。
 ただ、法律を実際に運用していく上で、残念なことに、各地域の現場で予想外の事態が起きていることも事実です。例えば、施行以降ペットボトルの供給が急激に増えて、消費者もそれが当たり前のように使い捨てる状況を生み出しています。
 こうした中で、最近は容器包装リサイクル法自体の効果を否定的に評価する意見さえないではありません。しかし、法律ができて5年、施行されて3年が経過し、ようやく具体的な課題が整理されてきたことは、とてもすばらしいことなのではないかと私は考えています。
 一部に問題があるから法律全体がダメと捉えるのではなく、法律ができたことの恩恵を確認した上で、予想外の問題が発見されたらそのひとつひとつの原因をチェックしてきちんと改善していく。オール・オア・ナッシングではなくチェック・アンド・トライの精神。これが私の基本認識です。
 最近、地方の市民講演会などで必ず話すことは、「行政がリサイクルシステムを整備したことは評価できるが、それに甘えてどんどん買ってリサイクルすればいいというのでは、結局大量リサイクルという悪循環を自分たちで作ることになる。使ってしまったものはリサイクルに出すとしても、その前にまず自分の暮らし方を省みてください」ということです。
 そういう精神が市民の間に行き渡っていけば、企業も使い捨て容器は作らないというふうに考え方が変化して、法律の根本的な狙いである排出抑制が進んでいくのではないでしょうか。

 

●ダイオキシン問題への視点

 

  チェック・アンド・トライの精神、そして生活者の視点で自分の足元を見直してみる姿勢、これは環境問題すべてにおいて大切な要素です。
 例えば、ダイオキシンの問題などでも、発生源となる化学物質をなくしてしまおうという強硬な動きが一部の市民団体に見られますが、同じ市民として思うのは、化学物質を使って豊かな暮らしを享受してきたのは私たち自身ですし、それをありがたいと思って使ってきたわけですから、そういう流れを無視して、「それさえなければ問題は解決する」という極端な状況で話が進行しているのは非常に危険だということです。
 膨大なごみを生み出している現在の社会の仕組みと現実の私たちの暮らしという複眼的な視点で問題を捉えた上で、排出されたごみが大量に施設で燃やされるという状況を変えるにはどうしたらいいのかを、市民、企業、行政が一緒になって冷静に対処していく。そういうスタンスが必要です。
 ただ、ダイオキシンに対する関心の高まりで、ダイオキシンの排出全体に対する法規制が急速に強化されことは、結果的にせよ歓迎すべきことでした。今後、ダイオキシンの法規制が完璧に実施できていけば、かなりの環境の変化が期待できると思います。
 いずれにしても、市民、企業、行政が現実に何が起きているのかを見極め、チェック・アンド・トライの精神で冷静に対応していくことが必要だと感じます。

 

●「環境学習」のすすめ

 

  最後に、これからの課題として環境学習の問題に触れておきたいと思います。ヨーロッパでは、日本が公害問題で騒然としていた30年近くも前に、既に環境学習が大切であるという動きが出ています。各国が国境を接してひしめきあっているという地理的な状況からも、生活環境に対する意識が高くならざるを得ないという事情もあったでしょう。
 残念ながら、日本では環境学習という分野はようやく確立され始めた段階です。もちろん、東京学芸大学の小澤紀美子先生をはじめ優れた専門家の方々が、声を大きくしてその必要を説いていらっしゃいましたが、制度としての定着は欧米に比べてだいぶ出遅れた感があります。
 しかし、一昨年の暮れぐらいからようやく文部省や環境庁も考え方をまとめ、教育の現場に環境学習を取り入れていくという時代に入ってきました。昨年は、環境庁企画調整局環境保全活動推進室の手で廃棄物をテーマにして『環境学習2000年号』という充実した報告書も出されています。
 この中で指摘されているとおり、環境学習とは、単に環境の知識を詰め込んだり、焼却施設を見学したりということではなく、私たち一人ひとりが自分の事柄として環境問題を捉え、環境のために何かしようと動き出す、そういう動機を育てることが基本的な目的です。

 

●再び「ごみダイエット」

 
  私は今後環境学習を進める中で、「ごみダイエット」も大きなキーワードになり得ると思います。理屈では理解できても、実際に何ができるのかという点で迷う人も多いはずですが、「自分のごみを減らす」ということに挑戦してみれば、実感も湧くし、それを社会につなげていくことで何かできるかもしれないということが分かってくるはずです。このように、身近なところから実践型の環境学習を組み立てていこうというのが私の考え方の基本です。
 環境学習は技術論やシステム論以上に根本的なものだと思います。現代の環境問題は、資源を大切に使うという、かつて物がない時代に人々が生活の中でやっていたことを、物の有り余っている現在のライフスタイルの中でどう実践していけばいいのか、ということを私たちに問いかけています。
 そのためには、単に消費を我慢するという発想ではなく、自然や物を大切にしながら全体を見直すトータルな視点を環境学習を通じて養っていくことが必要です。それが、ごみを減らすという結果だけでなく、皆の暮らしやすい環境を次の世代に伝えていくことにつながると思います。
 

 

■プロフィール 崎田 裕子(さきた ゆうこ)
 昭和26年生まれ。立教大学社会学部卒。集英社勤務を経てフリージャーナリスト。生活者の視点から環境問題、特にごみ減量やリサイクルなどをテーマに講演、執筆活動を行う傍ら、環境省登録の環境カウンセラー、東京都環境学習リーダーとして環境学習の企画運営などに取り組む。“ごみを計る”を武器にしたユニークな家庭ごみ減量法「ごみダイエット」がマスコミの注目を集めている。東京都廃棄物審議会委員。環境省中央環境審議会循環型社会計画部会臨時委員。首相の私的懇談会「21世紀『環(わ)の国』づくり会議」メンバー。「元気なごみ仲間の会」事務局長。
主な著書に、『ごみゼロ東京が見えた日』(日報)『だれでもできる、ごみダイエット』(合同出版)、「編集責任『ごみから未来を学びたい2〜循環社会は企業と市民で創り出す』元気なごみ仲間の会編著」(日報)など。