2000年3月 No.32
 
 

 日本におけるガス化技術開発の最先端動向
 

2.川崎製鉄の「川鉄サーモセレクト方式」

塩ビ混入廃棄物から各種有用資源を回収

  川鉄サーモセレクト方式は、スイスのサーモセレクト社が開発した熱分解ガス化溶融技術を基に、川崎製鉄(株)が日本のごみ事情を考慮して独自の改良を加えたもので、一般廃棄物はもちろん、医療廃棄物やシュレッダーダスト、廃プラスチック、下水汚泥などをガス化溶融して、有用な資源を回収・再利用するシステムです。
 川鉄サーモセレクト方式には主に、(1)ダイオキシンの発生を大幅に抑制できる、(2)廃棄物をクリーンで有用なガスに転化できる、(3)スラグやメタルなどを再利用可能な資源として回収できる、などの特長があり、昨年の9月から、川崎製鉄の千葉製鉄所構内(〒260―0835 千葉県千葉市中央区川崎町1/TEL.043-262-4716)に建設された150トン/日炉2基で、千葉県と千葉市との共同研究という形でその実証試験が進められています。
 実証試験には千葉市が回収した可燃ごみが用いられていますが、この中には生ごみや紙などのほか、ペットボトルや塩ビを含む廃プラスチック類も含まれており、塩ビを分別することなく他のごみと混合処理できることが確認されています。

 

■ ダイオキシン濃度は0.001ng

  川鉄サーモセレクト方式は、ごみの圧縮熱分解、ガス改質・溶融、ガスの冷却・精製、水処理の4つのプロセスから成っています。以下、プロセスに沿って主な特徴を見てみます。
【圧縮熱分解工程】
(1)まず、ごみを約500トンの圧力で5分の1に圧縮し、順次熱分解ゾーンに送り込みます。ごみを圧縮するのは、空気を排除することで熱分解の効率を向上させるためですが、同時に熱分解ガスの逆流を防ぐ栓の役割も持っています。
(2)熱分解ゾーンに送られたごみは、約600℃の温度、滞留時間約2時間というゆっくりした速度で熱分解されます。ここで有機物はガス化が進み、残りは金属類や瓦礫などの不燃物の混じった炭化物となります。
【ガス改質・溶融工程】
(3)炭化されたごみは次に高温反応炉に送られますが、川鉄サーモセレクト方式の場合、熱分解ゾーンと高温反応炉が一体化しているため炭化されたごみを系外に出す必要がないという点に大きな特徴があります。高温反応炉内は1,600℃〜2,000℃の高温状態となり、最後まで残っていた炭素分はガス化し、不燃物は溶融します。
(4)溶融物は均質化炉を経てメタルとスラグとして別個に取り出され、スラグはレンガや道路の路盤材などに利用されます。また、メタルも再利用されます。
(5)一方、熱分解や溶融工程で発生したガスは、1,200℃という高温を維持したまま高温反応炉に2秒以上滞留し、ガスの改質が行われ 、一酸化炭素や水素にまで分解されると共に、ダイオキシンはほぼ完全に分解されます。
【ガス冷却・精製工程】
(6)次の急速冷却塔では、1,200℃のガスを一気に70℃まで急冷し、ダイオキシンの再合成を防止します。同時に酸洗浄、アルカリ洗浄により重金属や塩化水素などが除去されます。このように、高温反応炉での高温分解と急速冷却塔でのガスの急冷という2つの要件を組み合わせることで、バグフィルターなどの特別な排ガス処理設備を設置することなく、ガス中のダイオキシン濃度を0.001ng―TEQ/N・という大気環境のレベルに近い値にまで低減することができます。
(7)冷却されたガスは、ガス精製装置に送られ、脱硫工程などを経て燃料として利用可能な合成ガスとなります。ガスの熱量は約2,000キロカロリーで、発電機の燃料や熱分解プロセスの燃料などに再利用されますが、製鉄、発電などの工業用燃料や化学原料としても利用可能です。また、水素の含有量が約30%と多いため、燃料電池としての利用も研究が進められています。脱硫された硫化水素は硫黄として回収されます。
【水処理工程】
(8)急速冷却塔で使用された水は沈殿槽を経て循環使用されるほか、一部は水処理装置で亜鉛や鉛などの金属水酸化物や混合塩を取り出した後再利用されます。金属水酸化物は非鉄金属原料として利用可能です。

■ 塩ビも問題なくリサイクル

 

  以上のように、川鉄サーモセレクト方式によって、生ごみや廃プラスチックが燃料ガス、スラグ、メタル、硫黄、水、金属水酸化物、混合塩(主に塩化ナトリウムを含む塩化物)といった新たな資源に変換され再利用されます。
 廃プラスチックについては、「基本的には分別できないものを安全処理する」というのが川崎製鉄の基本方針ですが、システムの能力としては「廃プラ50%程度の高濃度でも十分処理可能で、塩ビの処理も技術的には何ら問題はない」と、同社環境事業部の新井淳一課長は説明してくれました。
 川崎製鉄では、実証試験が終了する4月以降、産業廃棄物の処理施設としてシステムを事業展開していくほか、自治体へのプラント販売なども計画しています。また、平成10年12月には三菱マテリアル(株)との合弁でジャパン・リサイクル(株)を設立しており、来年からは同社を核に事業展開していく計画で、産業廃棄物・一般廃棄物系塩ビのリサイクル推進という点で大きな効果が期待されます。