1999年6月 No.29
 
アメリカ・ヨーロッパにおける塩ビ最新事情

  解明進む、ダイオキシンと塩ビの非相関性。
  ヨーロッパでは既に「関心外」

  去る5月13日の午前10時から、新宿モノリスビルにおいて塩ビ工業・環境協会及び当協議会共催の講演会が開催され、米オキシデンタル・ケミカル社副社長のビル・キャロル氏と、欧州塩ビ協会(ECVM)技術・環境部長のジャン・ピエール・デグレブ氏が、欧米における塩ビの近況について報告を行いました。話の中から注目すべき最新情報をご紹介します。

 

 

● 「塩ビ由来のダイオキシンは極微量」を実証

  ダイオキシンの発生メカニズムについて造詣が深いビル ・キャロル氏の講演『塩ビの誤った見方をどう正すか』は、20年以上にわたる化学技術開発の経験から、ダイオキシンの問題の経緯と発生メカニズム、焼却における完全燃焼の重要性などを総括したもので、特に注目されたのは、塩ビ製品中および塩ビ製造・焼却工程における排出物中のダイオキシン量に関する調査結果が報告されたことです。
  この調査は、米国塩ビ協会(VI)が4年間にわたって取り組んだもので、「他の業界に例のない徹底的なダイオキシン調査」と評価されています。
  調査結果は、調査試料のダイオキシン測定値を、アメリカの年間塩ビ生産量(塩ビモノマーと塩ビ製品の合計約1,600万トン)に当てはめて割り出した推定値で表現しています。その総量は塩ビ樹脂中には約3g、塩ビの原料となる二塩化エチレンの中に約1g、水の中に1g以下、焼却炉に11gとなっています。ここで注意しなければならないのは、塩ビ樹脂、二塩化エチレン、水の測定値について「ある素材の中にダイオキシンが検知できなかった場合でも、ゼロと報告してはならない(検知限界能力の半分の値を報告すること)」という、ダイオキシン排出量の報告に関する一般原則が適用されていることです。
  つまり、実際にはこれらの試料のほとんどからダイオキシン類は検知できなかったものの、ルールに基づいて一定の数値を記載しているわけです。
  この結果を、米国環境保護庁(EPA)がまとめたダイオキシン排出源調査の数値(1995年)と比較してみると、アメリカ全土におけるダイオキシンの排出量の総計が約2万8,000gとなっているのに対して、塩ビの推定値はわずか16gに過ぎず、ダイオキシン生成源としての塩ビのウエイトは極めて小さなものであることを裏付けています(表)。

  このほかキャロル氏は、去年EPAがワシントンの博物館に所蔵されている食品サンプルを対象に実施した食品中のダイオキシン濃度の推移に関する調査結果についても報告し、「食品中のダイオキシン濃度は1920年代から60年代にかけて増加した後、60年以降大幅に減少している。これは人里から離れたある湖の底質中のダイオキシンを調べたヨーロッパでの調査結果とも符合するが、注目すべきは、この間に世界の塩ビ使用量は3倍になっていることだ」として、塩ビがダイオキシン発生源の主要因だという一部の主張に対して、その矛盾を指摘しました(図参照)。

 

●  塩ビの網羅的調査が進行中

  ECVMのジャン ・ピエール ・デグレブ氏は、『EUにおける塩ビの多角的な検討』と題してヨーロッパでの塩ビ市場の概況や、塩ビを取り巻く行政環境などを解説。特に現在の最大の動きとしてEU委員会の主宰で進められている塩ビに関する網羅的・横断的な調査(PVC Horizontal Initiative)の問題を取り上げ、その詳細を報告しています。
  この調査は、塩ビ素材、原料段階から、消費段階、最終(廃棄)段階に至るまでの幅広い分野にわたって塩ビの全体像を見極めようというもので、EU委員会の各局(環境局、経済局など)が独立系調査機関に委託する形で作業が進められています。
  現在委託されている研究テーマはすべて塩ビ廃棄物の管理に関するもので、具体的には次の5項目。
 (1)焼却炉から出る排ガス中残留物の量と有害性に対する塩ビの影響(委託先はフランスのBERTIN社)
 (2)埋立地における塩ビの挙動(委託先はドイツのARGUS社)
 (3)塩ビ含有量の多い廃プラスチックのケミカル(フィードストック)・リサイクル(委託先はオランダのTNO社)
 (4)塩ビ廃棄物の管理に関する経済的評価。特に都市ごみから塩ビを分離した場合の財政的影響(委託先はイギリスのAEA Techn.社)
 (5)塩ビのメカニカル・リサイクルの研究(委託先はスイスのPROGNOS社)
  興味深いのは、研究テーマの中にダイオキシン問題が上げられていないことで、「ヨーロッパにおいては既に塩ビと関係づけられたダイオキシンの問題は課題となっていない」ことが分かります。
  デグレブ氏は「この調査が最終的にどうのような結果に結びつくのか、例えば提言のような形になるかどうかは分からないが、調査結果が報告されることで、ヨーロッパでは今年末までに塩ビに対する理解が非常に深まってくると思われる」と予測しています。
  なお、上記の研究項目のうち埋立地における塩ビの挙動については、ECVM独自でも既に3年前から大学の研究機関に依頼して調査を実施しており、つい最近、「塩ビが環境に対して深刻な影響を及ぼすことはない」とする最初の報告がまとめられたばかりとのことです。
  また、塩ビのフィードストックリサイクルについても、塩ビ含有量の多い廃プラスチックの利用についてECVMでは2年前に調査を開始しており、既に導入する技術の選定も終了して、今年末か来年早々にはそのパイロットプラントが立ち上がる予定となっています。