1998年9月 No.26
 
 

 トキワ工業(株)の塩ビ壁紙リサイクル事業
   (日本ビニル工業会 ビニル建装部会 リサイクル部会のテーマとして検討中)
   壁紙の再利用に新しい道を開く『パイン・ボード』、高速道路の遮音材にも有望

 

    今回は、塩ビ製品のマテリアルリサイクルの事例を取り上げます。訪れたのは、大阪市に本社を置く塩ビ壁紙の大手、トキワ工業(株)の大垣工場(岐阜県大垣市横曽根5-125-1、tel 0584-89-8400)。自社工場から出る廃材を再利用したリサイクルボードは、高速道路の遮音材としての利用も有望視されています。  

年間800トンの自社廃材を再利用

  印刷しやすく、天然素材の質感や色彩を忠実に表現できる塩ビ壁紙はその優れたデザイン性と難燃性、さらには施工時の扱いやすさなどから、一般家屋やビルの内装に欠くことのできない製品として、私たちの生活の中に定着しています。現在、塩ビ壁紙の年間生産量はおよそ7億平米、壁紙市場全体に占めるシェアは90%を上回ります。
  今回ご紹介するトキワ工業は日本における塩ビ壁紙のパイオニアでその生産量は年間約8,000万平米に達しますが、製造時に出る端材や規格外品、あるいは2年に1回行われるデザインの見直しによって出る廃柄品など、年間800トン程度発生する廃棄物をどう再利用するかということが、同社にとってここ数年の大きな課題となっていました。
  これらの廃棄物は、これまでは産廃として埋立処分されてきましたが「最終処分場の限界が近づく中、社会を取り巻く環境は産業廃棄物の増加を際限なく許してはくれない状況であり、処理コストも負担となっている」(平井新吾常務取締役)ことから、トキワ工業ではそのリサイクル方法について検討を開始。試行錯誤の末、リサイクルボード『パイン・ボード』の開発に成功しました。

 

■ 製品を生み出す熟練した職人技

  塩ビ壁紙は、紙の表面に軟質塩ビをコーティングして作られますがリサイクルという点では、塩ビと紙を分離するのが技術的に難しく不可能ではないものの、高いコストがかかるという問題があります。
  トキワ工業の『パイン・ボード』は、塩ビと紙を分離することなく一体でリサイクルできるという点で、壁紙の再利用に新しい道を開いたと言えます。
  『パイン・ボード』の製造工程は、(1)塩ビ壁紙を粉砕して綿状にした原料に、固化材としてセメントを混合する、(2)これに水を加えて粘土状に練り混ぜる、(3)押出成形機でボード状に成形する、(4)切断(5)乾燥、というのがおおよその流れで、乾燥までに要する時間は約1時間。1工程で約0.7トン、35枚のボードを製造することができます。また、乾燥室で製品の形状が安定するまでには、およそ7時間を要します。
  門之園春二取締役技術部長の話では、「技術的にはセメントと混合する時の水分調整が最も難しい部分。また、乾燥工程でひび割れを防ぐために現在はスチーム乾燥を行っているが、はじめの頃は風力乾燥させて失敗したこともある」とのことですが、このほか、押出成形する際の機械のスピード・コントロールも重要なポイントで実際に現場を取材してみると、ひび割れのない均等な製品を作るには熟練した職人の技を必要とすることが分かります。

■ 遮音材の実用化へ向けて研究中

 
  『パイン・ボード』の第1の特徴は、曲げ強度、引っ張り強度が大きく、ともにJIS規格に適合する強さを備えていることです。耐候性にも優れ、凍結融解試験(凍結と融解を繰り返し異常が発生しないかを確認する試験)では300サイクルの試験に合格するなど、屋外使用時の寒暖の温度差にも十分耐え得ることが証明されています。また、チップ・ソーで簡単に鋸加工できる加工性のよさも魅力で、不燃性については現在試験中とのことですが、燃えにくい塩ビ再生品ならではの好データが得られるものと期待されます。
  『パイン・ボード』の用途については現在、群馬県館林市にある集荷センターにおいて、倉庫壁面としての利用実験が行われていますが、このほかの用途で今最も有望視されているのが、高速道路の遮音材としての利用です。この遮音材は、発砲ウレタンの層をボードでサンドイッチ状に挟んだもので、たまたまトキワ工業の取り組みを知った日本道路公団四国支社の要請を受けて、現在、実用化へ向けた開発が大垣工場において進められています。
  遮音材としては、コンクリートやポリカーボネートなどが一般的ですが、これらの先行素材と競合するには、遮音効果等の物性、施工性、価格などの面でより有利であることが要求されます。『パイン・ボード』の重量は、3×6板と呼ばれるタイプ(厚さ12mm×幅900mm×長さ1,800mm)で1枚約24kgと、コンクリートに比べてかなり軽量と言えますが、今後の実験で重量以外にも「塩ビ壁紙ならではの特性」が見定められれば、間もなく塩ビ壁紙をリサイクルした遮音材が登場することになりそうです。

   

■ 壁紙リサイクルへ、業界も連携

 
  一方、トキワ工業の『パイン・ボード』の開発がきっかけとなって軟質塩ビ関連の業界団体である日本ビニル工業会(建装部会)の中に壁紙リサイクルのための分科会を設置するという動きも出てきました。メンバーはトキワ工業のほか、アキレス、関東レザー、竹野、東武化学工業の5社で、具体的な活動内容など今後の取り組みの方向について話し合いが始まったばかりの段階ですが、塩ビ壁紙のリサイクルを業界全体のテーマとして取り組もうという機運が高まってきたことは、塩ビ業界全体にとっても期待の大きい動きと言えます。
  「いずれは建築現場から出る壁紙廃材のリサイクルも考えたいが、それには回収方法など難しい問題も多い。まずは、自社廃材の全量リサイクルを目的に体制を整えていきたい」(平井常務)。
  業界全体では、概算で年間1万4,000トン程度の廃棄物が出ているものと推定されますが遮音材のほかにどんな再生品が考えられるのか、塩ビ壁紙のリサイクルを拡大していく上では、その用途開発が当面の最大の課題となっています。