1996年9月 No.18
 
 

 福岡県・光和精鉱(株)に見る塩素利用技術
   画期的な塩化揮発法 −塩素の力で鉄鉱石中の有価金属を回収、塩ビの処理にも有効

 

    塩化揮発法という独自の塩素利用技術で全国に知られる福岡県の光和精鉱株式会社(北九州市戸畑区大字中原46−93、新日本製鐡構内 TEL.093−872−5155)。今回は、製鉄技術と産廃処理を巧みに連動して多彩なリサイクル事業に取り組む同社の現状をレポートします。  

塩ビ業界も要注目の塩化揮発法

  光和精鉱は、以前にこの頁でご紹介した同和鉱業(株)のグループ企業です(95年9月号「同和鉱業岡山クリーンワークス」の記事参照)。
  塩ビを含む廃プラを産廃焼却のカロリー源と位置づけて安全処理に取り組む岡山クリーンワークスに対して、産廃処理だけでなく製鉄原料の製造など幅広い事業を営む光和精鉱の場合は、廃プラ処理よりも塩素系産廃の処理とリサイクルという点に際立った特徴を見ることができます。
  特に、後で詳しく触れる塩化揮発法と呼ばれる同社独特のノウハウは、塩素の有効利用という意味で塩ビ業界関係者にもぜひ注目してもらいたい技術となっています。

 

■ 工場全体が巨大な産廃処理施設

  もともと同社は、製鉄原料である高炉用ペレット(粉体鉄原料を直径約15mmの小球に造粒し焼成したもの)と硫酸の製造、さらに使用原料中に含まれる非鉄金属(銅、鉛、亜鉛、金、銀など)の回収を目的として昭和36年に設立された、新日本製鐡(前八幡製鉄)、同和鉱業など4社の合弁企業で、「当時はそんなことは考えなかったが、今思えば初めからリサイクル産業としてスタートした会社」(光和精鉱九州営業所の高松秀行営業部長)というように、製造業でありながら生まれながらに静脈産業の性格を備えていました。
  現在は、硫酸とペレット製造のほか、セメント原料の製造、粗芒硝(硫酸ナトリウム)の製造、産廃処理の5つのラインが稼働しており、注目の塩化揮発法はペレットの製造過程で非鉄金属を分離回収する方法として利用されています。また、5つの製造ラインすべてにおいて各種の廃液、廃油、汚泥などが原料や燃料の一部として積極的に有効利用されており、工場全体を巨大な産廃処理施設と考えることができる点にも光和精鉱の特異性があると言えます。

■ 塩化揮発法で塩素もリサイクル

 
  ここで、高炉用ペレットの製造工程を追いながら、塩化揮発法の仕組みについて詳しく説明してみましょう。塩化揮発法とは、鉱物を塩化すると揮発しやすくなる性質を利用したもので、簡単に言えば、鉄鋼製錬上は不純物とみなされる原料中の非鉄金属を塩化物にして揮発させた後に各種の有価金属類として分別回収する方法のことです。これを高炉用ペレットの製造と同時に行うところが光和精鉱の技術の見せどころです。
  ぺレットの製造には、鉄鋼メーカーの工場から出る製鉄集塵ダスト(酸化鉄、コークスを主成分とし少量の亜鉛などを含むダスト)にさまざまな工業廃液や鉄系の汚泥などを加えたものが原料として用いられます。この原料を燃焼した後、次の調湿工程で塩化カルシウムが添加されますが、これが後に塩化揮発を行う際に反応剤として重要な役割を果たすこととなります。また、添加される塩化カルシウムのうち約3割はペレット製造の最終段階で回収されたもののリサイクル(後述)、残りは同時に添加される廃塩酸を石灰と反応させて得られたもので、ここにも光和精鉱ならではの塩素の有効利用法の一例を見ることができます。

   

■ 原料中の非鉄金属、90%以上を回収

 
  次に造粒、乾燥などを経てロータリーキルンで焼成ペレットが製造されますが、この時、先に添加された塩化カルシウムは800℃以上で亜鉛、銅などの非鉄金属と反応して塩化亜鉛、塩化鉛、塩化銅などの塩化物を形成し、1000℃以上の高温下でガス体となって揮発しはじめます。これを冷却して、液中に捕集し液処理工程で石膏、および沈殿銅や硫化鉛、鉄殿物、亜鉛殿物といった各種の有価金属類を分別回収する −これが塩化揮発法の大まかな仕組みです。
  光和精鉱では、現在、月間約1万トンの高炉用ペレットと、石膏(1000トン)を含め1250トンの有価物を生産していますが、原料中の金属の回収率は鉄分でほぼ100%、非鉄金属でも90%以上に達するといいます。また、液処理工程で有価物を回収した後の液は、濃縮して塩化カルシウム溶液として回収され、先に述べたとおり調湿工程で再利用されることとなりますが、その回収量は月間約400トンとのことです。

 

■ 最終処分場いらずの中間処理施設

 
  最後に光和精鉱の産廃処理設備についても簡単に説明しておきます。同社が産廃処理の分野に本格的に参入したのは昭和62年のことで、当時休止状態だった高炉用ペレット製造ラインの2号ロータリーキルンを転用する形で事業を開始しています。現在、処理量は月2万トンで九州では最大規模。創業目的の硫酸製造より「最近では産廃処理のほうが主軸になってきた」(野呂瀬敦夫技術課長)と言います。
  但し、同社で処理しているのはほとんどが汚泥、廃液類で、廃プラ類は余り多くはありません。現在はパチンコ台のシュレッダーダスト(一部に塩ビを含む)が処理されている程度ですが、高松部長によれば、将来は「原料の硫黄自体が熱源となる硫酸製造ラインを除き、他のラインを含めて熱源として本格的に利用したい」とのことです。
  産廃の排ガス処理工程は高炉用ペレットの製造ラインに連結しているため(フロー図参照)、今後塩ビなど塩素系の樹脂が増加しても十分に対応可能であることは言うまでもありません。ちなみに、焼却残渣も埋め立てではなく、原料製造工程の中などに戻されて完全に処理されています。「最終処分場いらずの中間処理施設」という評価は決して誤りではないようです。