1995年6月 No.13
 
 

 石川県・河北郡広域事務組合の廃プラ専焼事業
   ―地域のごみ問題克服へ、自治体による「全国唯一」の試み

    今回のレポートは、自治体による廃プラ専焼事業という、全国でもあまり例を見ない取り組みを進める石川県の河北郡広域事務組合(矢田剛理事長)を取り上げました。歴史的、地理的な事情を背景に増え続けるプラスチック廃棄物の悩みを、独自の方法で克服しようとする自治体の試みにご注目ください――。  

注目の河北郡第2クリーンセンター

  「廃プラを専焼している自治体は、全国でもおそらくここだけではないでしょうか」と説明するのは、河北郡広域事務組合の能任明義事務局長。
 その自慢の焼却施設は、広々とした田園地帯の中、背景に河北潟を控えた一角にのどかな姿を見せています。施設は、第1と第2の2つのクリーンセンターから成っていますが、注目の廃プラ専焼を担当しているのは、このうちの河北郡第2クリーンセンターのほう。1日の処理能力10トン(16時間の准連続燃焼式)と、決して大型の炉ではありませんが、このセンターの真価を理解するためには、具体的な説明の前に、まずは建設にいたるまでの背景と経緯を知っておく必要がありそうです。

 

■ 合成繊維系廃プラ急増に対応

  河北郡広域事務組合は、内灘砂丘で知られる内灘町、ブドウのハウス栽培が盛んな高松町、センターのある津幡町に宇ノ気町と七塚町を加えた5つの自治体で構成されています。
  県中央部の日本海沿岸に広がる管轄区域は、南は県都金沢市に隣接し、北に向かっては能登半島への玄関口に当たるという地理的条件から人口の増加も激しく、これに伴って急増するゴミ処理対策が行政上の深刻な問題となっています。
  一方、この地域は伝統的に繊維産業の盛んな土地柄でもあり、現在は全国の8割のシェアを占めるというゴム紐を中心に、ポリエステル、ナイロン、塩ビ系などの合成繊維製品が生産され、地元の有力な地場産業となっています。このため近年は町中の工場(多くは零細な家内工業)から出る高カロリー廃棄物が既存の焼却施設にとって大きな負担となり始め、一方では大量に廃棄されるハウス栽培用の廃農ビの処理も対応が急がれる問題となってきました。
  組合では昭和62年、これらの問題に対処するため、3年がかりで日量100トン(16時間)の処理能力を有する第1クリーンセンターを建設し処理を進めてきましまたが、予想を上回る高カロリー廃棄物の増加に改めて対策を協議。プラスチック処理促進協会が廃プラ焼却実験で使用した実証プラントの一部を、県のモデル事業として譲り受け、廃プラ等の高カロリーごみを有料で処理する第2クリーンセンターとして平成2年12月から稼動を始めたというのがこれまでのおおよその経緯です。

■ 浸透する「ごみ処理有料」の意識

 
  こうしてスタートした河北郡広域事務組合の廃プラ専焼事業ですが、有料処理ということもあって当初は搬入量もなかなか思うようには集まりませんでした。
  しかし、工場のなかには壊れやすい自家用の焼却炉に手を焼いていたというところも多く、商工会や役場を通じて繊維会社に働きかけを続けた結果、「ごみには金がかかる」という意識も徐々に浸透し、搬入量も急速に向上してきたということです。
  「この事業は、要するに零細企業対策のひとつなのです。繊維産業といっても実態は家内工業に過ぎない零細業者に、多額の処理費用は負わせたくない」と、能任事務局長。
  現在、処理料金は繊維系ごみ(プラスチック系屑、ゴム紐屑など)、廃農ビいずれもトン当たり1万円。繊維系ゴミについては、一部がリサイクルされて車のシートの中材等に利用されるほかは、大半が第2クリーンセンターに持ち込まれて焼却されています。

   

■ 年間900トンの廃プラを処理

 
  第2クリーンセンターで処理される廃棄物の量は、平成6年の統計で2400トン。うち900トンが繊維系の高カロリーごみ、残りが焼却炉(流動床式)の温度調節に用いられる汚泥(下水汚泥、し尿汚泥)などで、1日当たりでは、高カロリーごみ5トンに対し、下水汚泥とし尿汚泥がそれぞれ2.5トンずつという設計になっています。
  塩ビ系のごみとしては、繊維屑や廃農ビのほか、OA機器メーカーから出るICケースの廃棄物なども処理されていますが、廃農ビについては持ち込みのための梱包作業に手間取ることもあって、農家はやや敬遠ぎみとか。組合では「余力はまだ十分にあるので、今後も各農家に働きかけて行きたい」としていますが、現在のところ搬入量は10トン程度にとどまっています。

 

■ 塩ビの処理量は2割程度に調整

 
  第2クリーンセンターの処理工程は図に示したとおり。焼却炉は前述のように瞬間燃焼型の流動床式焼却炉で、炉出口近くに中間天井と呼ばれる邪魔板を設け、焼却炎の攪拌と十分な反応時間が得られるように工夫されています。
  排ガス対策としては、反応室での粉体の消石灰を噴霧して塩化水素を中和した後、電気集塵器により各種のばい塵を除去することで万全を期していますが、塩ビの焼却については排ガス対策に配慮して、現在は廃プラの1〜2割程度に抑えるよう調整されています。ただし、通常のやり方に加えて、炭酸カルシウムの粒を焼却炉に投入するという工程をプラスすれば、2割を超えても塩ビの処理は十分可能とのことでした。
  同センターの木越喜治課長は「このほか、臭気対策や排水対策も含めて公害防止には徹底して注意を払っています。ここでは塩化水素、窒素酸化物などもすべて基準値を下回っています。ただ、それはあくまで基準値以下に抑えるということですから、私たちは厳密な意味では『無公害』という言葉は使わないようにしています」と言いますが、こうした姿勢も実は安全性の自信があってこそと言えるのかもしれません。

 

■ 将来は固形燃料化の試みも

 
  ところで、今後の焼却事業にとって熱エネルギーの回収・再利用は避けて通れない課題となりつつありますが、第2クリーンセンターではまだこうした取り組みはみられません。
  第1クリーンセンターのほうは、場内の給油暖房等に余熱が利用されていますが、第2クリーンセンターの場合、処理量が少ないため十分なエネルギーが得られないといった事情もあって、熱利用の実施は難しい状況にあるようです。
  もっとも、ここで燃やされる廃プラを「下水汚泥などを燃やすための燃料」と考えれば、第2クリーンセンターの取り組みそのものをサーマルリサイクルのひとつの事例と評価することも、可能かもしれません。
  組合では、将来は固形燃料化の方向で熱利用に取り組みたい意向も持っているようですが、こうした取り組みが実現すれば、河北郡第2クリーンセンターは、地域の廃プラ処理において更に重要な役割を担うこととなりそうです。
  なお、同センターの焼却灰は現在、鋳物工場から出る鋳物砂の粉塵と混合して園芸用の土壌材に利用することを検討中で、高い保水性により切り花のみずみずしさを1カ月以上も維持させる効果が「廃棄物の隠れた特性を引き出した新素材」として地元マスコミの注目を集めています。