2019年7月 No.107 

特集 建材(省エネ) レポート 1

まるでガラスの壁。
㈱LIXILに見る窓断熱の最先端事情

ゼロエネ実現へ、5層ガラスの「レガリス」など
注目の製品開発

5層ガラスの「レガリス」

芝浦工業大学・秋元教授のお話でも指摘されたとおり、建築物のゼロエネルギー化を実現する上で、窓の高断熱化は重要なポイント。ここでは、高断熱窓のモデル事例として、日本の窓を牽引する㈱LIXIL(大坪一彦社長、本社:東京都千代田区)の注目製品をピックアップ。日本の窓断熱はここまで進んだ!

熱貫流率0.55W/㎡・K

 まずは、窓断熱の技術がどこまで進化しているのかを知るのに恰好の製品を取り上げます。LIXILが世界に誇る住宅用樹脂窓の最高峰、高性能5層ガラスの「レガリス」。2016年4月に発売された製品で、5層のガラスは中央の1枚を除きLow-Eガラスを採用し、内部にアルゴンガスを封入。塩ビ樹脂製の窓枠には、フレーム内の中空層を増やす「多層ホロー構造」を用いて、ホロー内の適所に断熱材を入れるなど、様々な最新技術を駆使することで、熱貫流率0.55W/m²・K(一般に3.49W/m²・K以下を断熱窓と呼ぶ)という、壁とほぼ同等の断熱性能を実現しています。
 ガラスメーカーと共同開発した特殊薄板ガラスは、表面の2枚が2㎜、中の3枚はわずか1.3㎜の薄さで、5層でありながらトリプルガラス並みの軽量化(20㎏)を実現。また、フレームのスリム化を徹底した結果(高強度スリムフレーム)、ガラス面積が約5%拡大し、シンプルで美しいデザインに仕上がっています。

レガリスの断面構造
レガリスのフレームのイメージ図
レガリスの断面構造(左)とフレームのイメージ図(右)。
赤い部分が断熱材。冷気の侵入を軽減するエアフラップも、断熱性能を向上させるポイントのひとつ。

自然環境にも人の心と健康にもやさしい窓

 「ガラスの高性能化とともに、フレームについても高性能でしかもスリムなものを目指す、というのがレガリスの開発方針。仮に住宅の断熱性能のみを追求するのであれば、窓はない方が良いということになるが、壁だけに囲まれた閉鎖的な空間では、人は快適に暮らすことはできない。レガリスは、窓の持つ開放性はそのままに高い断熱性能を備えているのが最大の特徴だ」(サッシ・ドア商品開発部の石上桂吾部付部長)
 高断熱で結露やカビの発生も防ぎ、広々とした外の景色も楽しめる。「レガリス」は自然環境にも人の心と健康にもやさしい窓と言えそうです。

㈱LIXILとLIXILグループの環境方針

2011年に国内の主要な建材・設備機器メーカー5社が統合して誕生。LIXILとは、住(LIVING)と生活(LIFE)から作られた造語で、その名のとおり、住宅部門のハウジングテクノロジー、ビル部門のビルディングテクノロジー、水回りのウォーターテクノロジーの3部門を中心に、暮らしの課題を解決する高品質な製品を提供している。2016年に制定した「LIXILグループ環境方針」では、今後2030年までに、事業活動による温室効果ガス等の環境負荷を30%(2015年度比)、製品による環境負荷を15%それぞれ削減する目標を掲げ、全社を挙げて目標達成に取り組んでいる。

トリプルガラスの「サーモスX」、樹脂窓「エルスターX」

 一方、現在同社の主力製品となっているトリプルガラスの「サーモスX」は、高性能ハイブリッド窓(アルミ樹脂複合窓)のひとつ。国によるZEH普及の動きを視野に2015年3月に発売されたもので、熱貫流率は1.03W/m²・Kと「レガリス」にはやや劣るものの、よりスリム化したフレームに広々としたガラス面、中間に1.3㎜の特殊薄板ガラスの軽量トリプルガラスを採用していること、窓枠の「多層ホロ-構造」と断熱材の使用など、多くの点で「レガリス」の先駆的な性能を備えた製品といえます。
 「レガリスは窓断熱の可能性の極限を追求した製品。どこまでやれるのか、やれるだけやってみようというチャレンジングな気持ちで開発したものだが、5層ガラスだけに技術的に難しい問題もあり、完成までに時間が掛かった。このため、レガリス開発の技術要素、即ちフレームのスリム化やガラスの薄板化などを応用してサーモスXを先行発売することになった」(渉外部の森山陽水主幹)。
 このほか、世界トップクラスの断熱性を誇る樹脂窓「エルスターX」(トリプルガラスで0.79W/m²・K)も、LIXILの高性能窓シリーズを代表する製品のひとつです。

サーモスXの断面構造
サーモスXの断面構造。表面の2枚のガラスの厚みは3㎜。
トリプルガラスの中空層に高性能ガスを封入している。

樹脂窓、ハイブリッド窓、アルミ窓を適材適所で

 「当社の高性能窓の出荷数量(樹脂窓とハイブリッド窓の合計)は、2013年まで窓全体の3割程度で、残りの7割はアルミ枠の単板ガラスとペアガラスの窓だった。この状況を逆転させるため『2020年までに高性能窓を7割まで引き上げる』という目標を掲げて記者発表を行ったのが2014年。以降、目標達成のために、スタンダードからハイクラスまで、より性能の高い窓を開発。高性能窓が普及すれば住宅のエネルギー使用量も減らすことができる、という考えで活動してきた結果、2018年には目標の7割を2年前倒しで超えることができた。日本のように北南に長く、地域による寒暖の差が大きい国では、それぞれの地域の環境に適した窓を提供していくことが必要なので、当社としては一種類の窓だけでなく樹脂窓、ハイブリッド窓を軸にアルミ窓までを含めて製品提供していくようにしている。樹脂の良さを生かしながら、必要なところはアルミを使って補強するという考え方だ。現在のところ、売上げとしてはサーモスシリーズが最も多いが、レガリスも北海道や東北といった寒冷地だけでなく、九州からも引き合いが来ている。レガリスは高価なので、窓にこだわって本当にその価値を認めていただける人に使ってもらえればと考えている」(石上部長)
 今回は住宅部門の製品に絞ってご紹介しましたが、オフィスビルなど非住宅の窓に関してもLIXILの対応は進んでいます。「非住宅については別部門(ビルディングテクノロジー。囲み参照)でハイブリッド窓の開発・製造を行っている。ビルの窓の場合、耐風圧や強度の問題などがあるので住宅の窓より難しい部分も多いが、ホテルや介護施設などでは窓断熱が確実に効果を発揮する。これから普及が広がる集合住宅向けのZEH(ZEH-M)においては、耐風圧強度と断熱性能両方を兼ね備えたハイブリッド窓に多くの期待が寄せられている」(森山主幹)
 LIXILの製品は、間違いなくZEB/ZEHの普及の大きな力となっているようです。

写真
製品の説明をする石上部長(左)と森山主幹