2019年3月 No.106
 

薬剤の安全・安心を守るPTP用プラスチックシート

防湿性、遮光性etc.日本のパイオニア・住友ベークライト鰍ノ聞く、多彩な性能の秘密

半導体の自動洗浄装置
 PTP(Press Through Pack)とは薬剤(錠剤、カプセル剤)の包装形態の1つ。湿気や紫外線などから薬剤を護り、衛生的で簡便な服用を可能にした、このプラスチック製品が登場してから半世紀あまり。日本におけるPTP用プラスチックシートのパイオニア・住友ベークライト梶i本社=東京都品川区/藤原一彦社長)に、その多彩な性能の秘密と、製造現場の近況を取材しました。

●PTP用硬質塩ビシート「スミライトVSS」

世界に先駆け米FDA規格適合シートを開発
 PTPは1950年代にヨーロッパで始まり、薬剤の品質保護性能の高さ、使いやすさから世界中で使用されるようになった。
 日本では、60年代から導入が進んだが、PTP用シートの国産化は住友ベークライトが嚆矢。同社は、先に開発していた硬質塩ビシートを独自の研究によりPTP用途に展開。世界に先駆けて米国食品医薬品庁(FDA)規格に適合する配合を確立し、1966年、PTP用「スミライトVSS」として発売した。以来、各種PTP用シートの開発、シリーズ化を進め、その製品は国内外で広く利用されている。

 薬剤は、その成分の違いによって、大気中の水蒸気や太陽光などから様々な影響を受けます。例えば、湿気により成分が変質したり体内での崩壊性が低下したりする薬もあれば、紫外線で分解してしまう成分を含む薬も少なくありません。そうした薬本来の効能を損ないかねない影響から薬を保護し、薬剤一個ごとの品質を確保するのがPTPの最大の役目です。
 PTPは、薬剤を充填するプラスチックシートをアルミのフィルムで密封した構造になっていますが、高度な防湿性や遮光性を維持する上で、とりわけ重要な役割を担うのがプラスチックシート。住友ベークライトは、そのPTP用シートの製造を日本で初めて手がけ、半世紀以上にわたって「薬剤の安全・安心」に貢献してきたトップメーカーです。
 「PTP用シートには防湿や遮光だけでなく様々な性能が要求される。当社は1966年にPTP用硬質塩ビシート『スミライトVSS』を開発して以来、国内外の製薬会社に各種プラスチックのPTP用シートを供給し、信頼と実績を積み上げてきた。この分野では現在も、国内最高のシェアを有している」(医薬品包装営業部の吉田優部長)

●押出し性と防湿性の両立が、製品設計のキーワードに

抗菌日立ラップ

 PTPは通常、製薬会社がカレンダー成形によって自主製造する。まずシートを成形して錠剤を充填、アルミのシールを溶着して、シートを打ち抜いて完成。

 改めてPTP用シートに求められる性能を整理すると、まず何より肝心なのは薬の品質保持。中でも防湿性(水蒸気バリア)、遮光性などは特に重要なポイントです。さらに衛生性(食品衛生法、塩ビ食品衛生協議会、ポリオレフィン等衛生協議会の自主基準であるPLに適合)や利便性(押出し性など)などもPTPの機能を大きく左右します(下表)。
 「本来、PTP用シートにとって最も重要なのは防湿性だが、最近のトレンドとして押出し性の良さが重視されるようになっている。高齢化で、錠剤を押出す力がないお年寄りが増えているためで、固さをできるだけ抑え、押出し性と防湿性を両立させるのが、製品設計のキーワードになっている」(吉田部長)
 現在国内で流通しているPTP用シートには、塩ビ単層、ポリプロピレン(PP)単層、塩ビと塩化ビニリデン(PVDC)の複層、塩ビにフッ素系のフィルムを貼ったタイプなどがあり、それぞれの薬剤に求められる性能に合わせて、製薬会社が選択しています(同社のラインナップでは、塩ビ単体の「スミライトVSS」、PP単層の「スミライトNS」、塩ビとPVDC複層の「スミライトVSL」、フッ素系の「スミライトFCL」、の各シリーズ)。
 「最も防湿性が高いのはフッ素系のタイプだが、層が厚くなる分、コストも高くなる。塩ビの防湿性はフッ素ほど高くはないが、適度な性能があり、50%の薬は塩ビ単層で対応できる。また、塩ビは成形性や押出し性も良く、コストも安い。光を嫌がる薬には、UV機能を付与した製品(「スミライトVSS- UV」)も開発されている」(吉田部長)
 前項のラップフィルムと同様、性能と価格のバランスのよさが塩ビシートの評価点と言えます。

PTP用シートに求められる特性

機能 項目
内容物の品質保持 水蒸気バリア、酸素バリア、遮光性紫外線遮断、機械的特性、熱的特性、耐薬品性
衛生性 法(食品衛生法)の適合、GMPの適合、微生物管理、コンタミ異物混入防止、防虫・防毛管理
作業性 成形機械適性、シール適性、易検査適性、安全性
利便性 小型化、携帯適性、押出し性、開封適性
商品性 デザイン、色彩、光沢、印刷適性
経済性 コスト、物流管理、合理化、標準化
環境適応性 リサイクル化、廃棄物処理対応、省資源、省エネ

●ジェネリックメーカーとの二人三脚

 日本に登場して半世紀を超えたPTP用シートですが、この10年ほどの間にその需要の流れは大きく変わったといいます。
 「国の方針もあってジェネリック医薬品が拡大してきたのに伴って、我々の顧客も、先発メーカーに加えてジェネリックメーカーとの関わりが増えている。その結果、ジェネリックメーカーも含めたPTPの開発サポートとか製品評価といったことが我々の重要な仕事になってきた。例えば形状提案といって、メーカー側の原案を3DCADを使って簡易樹脂型に成形するなど、包装材の形を決める段階から関与することで、メーカーが早く製品を世に出せるようにお手伝いしている」(吉田部長)
 シート供給だけでなく、メーカーと二人三脚の製品開発が新たなトレンドになっているようです。
 なお、食品衛生法の改正(特集記事1)に関して同社は、「使用する化学物質は米FDAのポジティブリストに載っているものに限っている。塩ビ食品衛生協議会等の認証制度にも登録しており、今回の法改正にも十分対応できると考えている」としています。

ジェネリックメーカーに対するサポートの例(成形型作成による形状提案)