2018年7月 No.104
 

泊まりたい!森の中の球体テントホテル

沼津市“泊まれる公園”イン・ザ・パークに出現した、話題の塩ビテントに注目

ジャケットデザインも人気の要因
 宵闇の森の中に浮かぶ幻想的な光の球。ホタル?いえ、ホテルです。泊まれます。そして、宙に浮いていても安心です。なぜなら、頑丈な塩ビのテント生地で出来ているから。というわけで、静岡県沼津市の泊まれる公園「INN THE PARK(イン・ザ・パーク)」に出現した、本邦初の新感覚ホテルを見学に、現場に直行。

●大自然の中のユニーク宿泊施設

写真:据え置きタイプのドーム型ホテル

据え置きタイプのドーム型ホテルも。雪洞のような丸みが可愛い。

写真:オープン・エーの山家さん

オープン・エーの山家さん。「お客さまには、とても好評です」

写真:テントホテルの内部

テントホテルの内部。清潔で、透明な塩ビの窓からの日差しも明るい

 一見すると天体のようでもありUFOのようでもあり、なんともインパクトのある光景ですが、見ているうちに不思議な安らぎ感がこみ上げてきて、一度は泊まってみたい気持ちになってくる−。このユニークテントホテルを運営しているのは、公園と同名の㈱インザパーク。建築物のリノベーションや都市計画などを手掛ける設計事務所㈱オープン・エー(東京都日本橋)が、2017年3月に公園運営のために立ち上げた会社です。
 「ここの敷地はもともと『沼津市立少年自然の家』だった所で、2017年3月に同施設が老朽化で閉所するのに伴い、既存の建物と跡地利用を目的に市が民間の運営事業者を公募した。オープン・エーは公共建築のリノベーションも得意にしているので、公募に参加した結果、運営事業者に選ばれ、快適性とエンタテインメント性を併せ持つ宿泊一体型の公園として昨年10月にこの施設をオープン。実際の運営業務は当社が担当している」と説明するのは、イン・ザ・パークの山家渉さん。
 約60万uの広大な自然空間には、各種イベントも楽しめる芝生広場を中心に、屋外ダイニングやサロンカフェ、1棟貸し切りタイプの宿泊棟など様々な施設やサービスが用意されていますが、本誌としては、何と言ってもテントホテルのほうに目を惹かれるところ。いったい、その発想はどこから生まれたのか。
 「従来の三角テントやキャンピングカーとは全く違う自然の中の宿泊施設、というコンセプトは当初から決まっていたことで、たどり着いたのが木につり下げる球体テント。海外では市販の球体テントも出ているが、これを自分たちで作れないかということでネット検索した結果、ジオデシックドーム(下の囲み記事参照)作りで実績のある三鷹テントに巡り会い、去年の春からやり取りを重ねて、デザインや構造、設置方法などを決めていった」

●「公園で泊まる」非日常感を楽しむ

 現在、公園内に設置されているテントホテルは計6室(球体型3室、据え置きドーム型3室。いずれも定員2人)。それぞれスタンダードタイプ(シングルベッド2台、6.8u)とデラックスタイプ(セミダブルベッド2台、11.3u)が用意されています。
 「お客様にはとても好評です。泊まるというより新しい体験を求めて来られる方も多く、皆さん、球体テントだけでなく、公園で泊まるという非日常感をゆったり楽しんでいる」
 メディアでも話題の球体テントホテル。浮遊感の中で天窓から見える森の景色を楽しむのもよし、地元の食材でバーベキューを楽しむのも、またよし。
https://www.innthepark.jp/

イレギュラーな注文にも果敢にチャレンジ。

国内唯一の球体テントメーカー・三鷹テントのモノづくり精神

写真:骨組みの連結部分
骨組みの連結部分
 オープン・エーからの依頼で球体テントを制作した去O鷹テント(東京都三鷹市、菊地信和社長)は、1957年からテントやオーニングなどの制作・デザイン・施工に取り組んできた会社。「イレギュラーなデザインのテントでもオーダーメイドで臨機応変に対応する」というのが同社の方針で、球体テントの技術的ベースとなったジオデシックドーム(正三角形の構造材を並べて組み上げる多面体ドーム。正二十面体が基本で、面数を増やすほど球体に近づき安定性が高まる)も、東京の特注家具メーカーの注文に応じて制作した実績があり、後にこの製品は東日本大震災の時に仮設テントとして利用されています。
 今回の球体テントは、そうした同社の活動を知ったオープン・エーからの制作依頼に応じて挑戦したもの。「以前に制作したのは、ジオデシックドームのフレーム構造で床に設置するドーム型のテント。球体テントは初めての挑戦でしたが、球体にすることで一番安定した構造となり、木からワイヤーで吊ることが可能になった」(菊地社長)

●これからも新しいことに挑戦

写真:球体テントの制作について説明する菊地社長
球体テントの制作について説明する菊地社長
 図面を起こし、必要枚数のテント生地をカットして、高周波ウェルダーで熱溶着する。これが球体テントの製造方法のあらまし。骨組みには亜鉛パイプが用いられています。現地で骨組みを組み立てて、その上にテント地を張って完成となりますが、デラックスタイプ(直径4.5メートル)だと、床の造作も含めておよそ600sの重量になり、「組立は3人掛かりで2日ぐらいかかる」とのこと。木に吊す作業は、木を傷めることのないよう、ツリー・ハウスの専門業者が行います。
 菊地社長は「当社の主力はあくまでも従来のレギュラーテント。それを大切にしつつ、これからも新しいことに挑戦していきたい。今回のイン・ザ・パークの取組みを機に、ジオデシックドームが多くの人に認知されることを願っている」と、モノづくりへの意欲を語っています。