2017年3月 No.100
 

産業技術総合研究所  上級主任研究員  加茂 徹 氏に聞く業界の枠を越えたプラスチックの共通仕様化と、情報技術を用いた資源管理を

 本誌100号記念インタビューとして2人の有識者にご登場いただきます。初めは、リサイクル工学、反応工学を足場に、石炭の液化やプラスチックのリサイクルまで幅広く活躍する加茂徹先生。20年以上に及ぶ塩ビリサイクルとの関わり、更には今後のプラスチックリサイクルの課題などについてお話を伺いました。

―塩ビのリサイクルと関わるようになった経緯をお聞かせください。

 1990年代の半ば頃でした。私は大学で石油精製を研究していたのですが、1987年に研究所に入ってから10年近くは石炭の液化の研究をやっていました。その研究がほぼ終了して、次に何をやろうかと考えた時に、廃プラスチック、中でも処理の難しい塩ビのリサイクルに石炭の液化技術を応用してみようと思い立ち、塩化ビニル工業協会(現塩ビ工業・環境協会)に行っていろいろ教えてもらったわけです。当時は、ダイオキシン問題などで塩ビバッシングが激しかったころで、正直に言うと、私も初めは塩ビにあまりいい印象を持っていなかったのですが、実際に話を聞くと、塩ビの側にもちゃんと言い分があるし、協会も安全な処理方法について熱心に検討していることが分かりました。
 やはり、こういう問題は両方の当事者から意見を聞くもので、昔から言うように一方を聞いて沙汰してはいけないんですね。最終的にはダイオキシンの問題も「塩ビそのものが悪いのではなく、適正に処理することが重要なんだ」というところに落ち着いたわけで、筋の通ったことを勇気を持って主張し続ければいつか理解される。そういう点で、塩ビ業界の姿勢にはリスペクトを感じています。
 ちなみに、この時の私の研究(「ポリ塩化ビニルの脱塩素および熱分解」)は、後に論文にまとめて、内外で注目を集めました。

―先生には塩ビリサイクル支援制度のスタート時から、評価委員としてご協力いただいていますが、10年間事業に携わられてどんな感想をお持ちですか。

■塩ビリサイクル支援制度

 塩ビ製品のリサイクルに関する考え方をまとめた『リサイクルビジョン』(塩ビ工業・環境協会、2007年5月)に基づき、塩ビリサイクルの一層の推進を目的に同年9月に創設。@塩ビのリサイクル技術開発、Aリサイクルシステムの構築、B塩ビリサイクルに関わる実証実験、の3分野を対象に、関係企業・団体による先進的な取り組みを公募、支援する。2007年12月の第1回公募スタート以来、下記の9案件が採択されている。

複合塩ビ廃材のマテリアルリサイクルシステムの開発/アールインバーサテック(株)
PVCタイルカーペット廃材のリサイクルに関する研究/住江織物(株)
塩ビ壁紙廃材を原料とする吸着性炭化物の製造/(株) クレハ環境
塩ビリサイクル材料を利用したフラクタル日除けの開発/積水化学工業(株)
PVCタイルカーペット廃材のマテリアルリサイクル技術開発/山本産業(株)
塩ビ含有廃プラスチックの脱塩素燃料化システム開発/太平洋セメント(株)
塩ビターポリン、レザー他複合材のマテリアルリサイクル技術の開発/蟹江プロパン(株)
広域認定制度を利用した塩ビ壁紙のリサイクル小口回収システムの開発及び実証試験/一般社団法人日本壁装協会
高速・高剪断混合溶融機による塩ビ壁紙のマテリアルリサイクル技術の開発/(株) 照和樹脂

 大変有意義な取り組みだと思います。こういう取り組みはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とか環境省といった公的な機関の資金で進められることが圧倒的に多いわけですが、この制度は民間の原資で維持されている。その点を高く評価しています。逆に言うと90年代にバッシングを受けたことが、環境に配慮する業界の体質を育てたのかなと感じます。いい意味で過去の経験が生かされていると言えます。
 10年間で採択された案件を振り返ってみると、いずれも興味深いところがありますが、2008年3月に採択された「複合塩ビ廃材のマテリアルリサイクルシステムの開発」などは特に印象に残っています。壁紙を叩いて塩ビと紙に分離するという発想が斬新で、驚くと同時に感心させられました。あとは「塩ビリサイクル材料を利用したフラクタル日除けの開発」(2008年12月採択)も、面白い発想だと思いました。実用ベースで言うと、セメント焼成用燃料に利用する「塩ビ含有廃プラスチックの脱塩素燃料化システムの開発」(2011年12月採択)も、なるほど、こういう使い方もあるなと感じました。
 こうした取り組みの中から、将来大きな産業に育ってくれるものが出てくることを期待していますが、それには技術だけでなく経営者の資質も大切なポイントで、プラス思考のベンチャーマインドを持った方が会社を導くことが成功の秘訣なのかなと思います。

―プラスチック・リサイクルをさらに前進させる上で、関係業界に求められる対策は何でしょうか?

加茂 徹 氏

 優先順位としてはやはりマテリアルリサイクル優先ということになるわけですが、現状では、廃プラスチックの年間排出量約1千万トンのうち、マテリアルリサイクルは20%程度で、発電、RPFなどのエネルギー回収が7割近くと圧倒的に多いのです。エネルギー回収を否定する気はありませんが、発電にしても発電効率は平均11%ぐらいですから、エネルギーの利用効率はまだまだ低い。この数字を相当上げていかないと、適正処理とは言えなくなってくると思います。

 プラスチックは異物が混入すると物性が非常に劣化するので、リサイクルで大切なのは、後で「分ける」のでなく、初めから「混ざらないようにする」ことがとても重要だと思っています。そのためにはまずプラスチックの種類を少し整理して欲しいですね。例えば自動車のバンパーなどでもメーカーごとにちょっとずつスペックが違いますが、これをせめて数種類にカテゴライズして集めるときも混ざらないように工夫する。プラスチック業界全体でそういう共通仕様化ができれば、個々の仕様の取扱量も大きくなりサプライチェーンも楽になります。また再生プラスチックをランク付けして、Aはマテリアルリサイクル、Bはケミカルリサイクルとか高炉還元、どうしようもないものはエネルギー回収、というようにすれば次に使う人が大変使いやすく、カスケード利用もスムーズに進むと思っています。また最近は情報技術が非常に進んでいるので、IoT、AI、そしてブロックチェーンを利用すれば従来の比重差やセンサーを用いた選別方法とは全く次元の異なる動静脈を通しての資源管理ができると考えています。

 

―リサイクル製品の需要を高めていことも必要だと思いますが、ご意見があればお聞かせください。

 リサイクルというのは、なるべく地産地消で回していくことが理想です。そのためには市場価値の高い製品を作ること。例えば衣料品などでも、環境にいいからダサくても我慢してリサイクル品を着るというのではなく、ファッショナブルでデザイン性の高い製品を開発すると同時に、環境に優しいという物語性に共感し、リサイクル品を身につけることがカッコいいと納得して貰うことが大切です。
 それと、付加価値のひとつとして、最近私はエシカル(ethical)という考え方に注目しています。エシカルというのは倫理、道義などを意味する言葉で、エシカル商品というと、途上国の人に適正な給料を払う、子供の労働力は使わない、紛争鉱物(紛争地域で産出され、それを購入することで地域紛争に加担することが危惧される鉱物)は使わない、といった条件を満たす製品を指します。
 これまでの工業製品は価格と品質だけで勝負してきましたが、それだけでは近い将来国際競争に勝てないということで、ヨーロッパでは「品質と価格だけではなく、環境、社会性に配慮した製品が価値のある製品なのだ」という、市場ルールの見直しが進んでいます。プラスチックのリサイクルも、そういう新しい価値観を広く普及させ、地産地消で回っていく形が作れれば素晴らしいと思います。