1994年9月 No.10
 

 農ビはなぜ使われる?
   
−その歴史と多様な特性−

 

 
  施設園芸などに用いられる農業用ビニルは、塩ビの主要な用途のひとつです。特に日本は欧米に比べてその需要が大きく、私たちの食生活に欠かすことのできない資材となっています。いったいなぜ、農業用ビニルはこれほど広く定着したのでしょう?
 

●  産声は昭和25年、戦後の食糧難に福音

 
  農業用ビニルの開発は昭和25年、太洋興業(昭和24年創業)の中村正六社長(当時)が米の増産に塩ビフィルムの利用を思いついたことからスタートしました。当時の日本は戦後の食糧増産時代の真っ只中。中村社長は、その頃水稲育苗の温床用資材に使われていた油紙の代わりに、新素材として登場したばかりの塩ビの可能性に着目したのです。
  開発は初めから順調だったわけではありません。その頃の塩ビフィルムはまだ耐久性や柔軟性に難があったからです。しかし、実用化に向けた中村社長の執念と、農林省やフィルムメーカーなどとの協力で実用試験が重ねられた結果、まず昭和26年には野菜の早期栽培や葉タバコの育苗に、そして28年には初めて水稲用の苗代に利用され大きな成功を収めました。当時の記録には「米穀の3割増収が可能になった」という驚きの言葉が残されています。農業用ビニルは文字どおり戦後の食糧難に福音をもたらしたと言えるでしょう。その後、耐久年数の長期化、寒冷地でも硬くならない工夫など品質の向上が図られ、農業用ビニルはまたたくまに全国に普及していきました。

 

●  農ビの多彩な特長、リサイクル率もバツグン

 
  農業用ビニルは、次のような特長から作物の特性に応じた多様なフィルムが用意されており、このことが食べ物の新鮮さを重んじる日本社会に普及した大きな 要因と言えます。
 1. 透明性が優れていて光線透過率が 高く光を有効に利用できる。
 2. 保温性、密閉性に優れているため 外気を遮断し、隙間から熱が逃げるのを防ぐ。
 水滴が流れやすいため曇りにくい上、ハウス内の霧も抑制する。
 また、使用済み農ビの約40%がリサイクルされていることも見逃せないポイント。多彩な特長を備えた農業用ビニル。私たちの食を守る大切な資材として、その役割は大きくなるばかりです。